51話

 俺のタブレットに、コキノレミスの心が入り込んでくる。もともと体のない存在なので、入り口さえわかれば簡単なようだ。ただ、そこから先は難しい。異なる作りの世界を進む力、それこそが魔族の力のようだった。

「速い。さすがだよ」

 タブレットの中でも、コキノレミスの動きは素早かった。電子の海を駆け抜け、将棋ソフトまでたどり着く。

「道はできそうか」

「う、うんっ」

 もしかしたら、道を切り開けばどこにでも入れるのでは。ここに来た時から、その思いがあった。

「行くぞ、ステノ」

「あ、ああ」

 少し、小さな声だった。

「今のステノなら、できる」

「当たり前だろう! あたしはできる」

 少し、叩かれたような感触があった。そんなにきつくはない。

 端末の世界へと意識を向ける。コンピュータ内の太い道から、とても細い道へ。俺が先に、ステノが後に。一列になってゆっくりと進む。

「意外とすっきりしてるな」

「タブレットには空き容量が多いようだ。人によってはそうでもないのかもしれないけれど」

 ダンジョンに必要なもの以外は入れていないため、中身はスカスカだ。空き地よりも寂しい空間。

「レミスー、いるかー」

「いるっ」

 すたたたた、と音がして、すぐそばまでコキノレミスがやってきた。

「レミスはどこでも速いな」

「ここ、からだがかるいっ」

「魔族の血がそうさせるんだろうか」

 心だけなので体の重さはないはずだが、感じないわけではない。四方から電子の風が吹いているような、不思議な重さだ。

「あそこらへんに将棋ソフトがありそうだ」

「よくわかるな」

「ステノはわからないのか?」

「まったくわからん」

 なんとなくだが、まだなじんでいない、新しい香りがするのだ。俺の端末では、まだ一度も使われていないものの放つ、居心地の悪さ。

「コキノレミス、あっちに道を作れるか」

「やるっ」

 コキノレミスが走ると、すっ、と景色が開ける。

「すばらしいぞ、我が弟子」

「えへへっ」

 前へ。まっすぐに手を伸ばす。

「届いた」

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