50話

「あ、あのっ」

「君がコキノレミスだね」

「はいっ」

「確かに、力がありそうだ」

 俺には、魔族の何らかの力を感じることはできない。それでも確かに、コキノレミスには何かを感じてしまう。

「ただ、まだ将棋の方は」

「わかっているよ。そんな簡単にはいかない」

「本当に大丈夫なのか」

 一人そわそわしているのは、ステノだった。彼女は、特別な何かを持っているわけではない。不安があって当然だ。ただ、彼女の役割も大きい。

「わからない。だが、試してみる価値はある」

 俺が頷くと、王も頷いた、ように見えた。コキノレミス、ステノも続く。

「王は、直接コンピュータに触れて。俺たち三人は、端末経由で」

「う、うん」

「いいよ」

「大丈夫だ」

 コンピュータは完全に停止しているわけではない。ダンジョン内のトラップは稼働中で、様々な機能もコンピュータの影響下にある。王が介入しているのは、あくまで将棋ソフトから生まれた自我プログラムなのだ。何度もアクセスを試みた結果、人間が作った部分は今でも参照可能だということが分かった。

 王にも手伝ってもらい、最初のソフトは端末に保存することができた。それ自体は素朴なものだが、全ての元凶でもある。これが自己対戦を繰り返し、人間を完全に超えていった。

 この種は、恐ろしいものだ。ついには将棋で敵がなくなり、ダンジョン自体を操り始めた。強さが、強さを操る主体というものを生み出したのだ。

 カルディヤたちはその力を自らのものにしようともくろんでいる。たが、そんなことは許してはいけないし、できもしないだろう。

 ……正直なところ、俺はコンピュータを、将棋ソフトを嫌いになれないのだ。どれだけ人間の脅威であろうとも、将棋をする存在は同志だと感じるのだ。

 だから、プレゼントをしたいと思う。

「よし、やろう」


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