対抗

49話

 どれぐらいの時間が経っただろうか。

 最初のうちは数えていたのだが、途中からやめてしまった。

 何か月たったのか。太陽も月もない世界では、暦も季節もどうでもよくなってくる。

 コキノレミスの棋力が成長するにしたがって、体の問題は改善されてきた。向こうの連中が一所懸命俺らの体をメンテナンスしていると考えると、笑いすらこみあげてくる。

 とはいえ、精神状態は最悪だ。三人以外には人間どころかモンスターもおらず、代わり映えのしない時間の連続。眠たくなっても、体が寝ていなければ完全に休むことができない。

「よし、行くか」

 コキノレミスの成長は目覚ましかった。とにかく吸収力がすごい。人間とは違う馬力というものがあるのかもしれない。そして引っ張られるようにして、ステノも強くなってきた。何かコツを見つけたようだった。

「今度こそ突破してやるよ」

「う、うん」

 これまで何度か、魔族の王のところに三人で向かってみた。けれども俺以外の二人は、途中で進めなくなってしまうのだった。ステノの言葉によれば、「意識が遠くなる」状態になり、気が付くと押し戻されているというのだ。

 俺が進めるということは、魔力の問題ではない。必要なのは棋力だ。

「きつくなったらすぐ言うんだぞ」

 精神が削られると、体にも響く。そして今、自分の体は自由にできない。疲労は、頭に響き続ける。

「以前より楽になった気がする」

「ぼくもっ」

「そうか。強くなったということだな」

 何回も通っているうちに、この世界の風景みたいなものが見えるようになってきた。コンピュータは止まっているといっても、死んでいるわけではない。その中には、生きている流れがある。

「私には何も見えないが」

「説明は難しい。エネルギーが動いているような」

「まったくわからん」

 だんだんと、空気の密度が濃くなっていく。いや、空気ではないのだけれど。足取りが重くなるような、息がまとわりつくような。魔族の王は、こんなところに何年も一人でいたのだ。

「おや、ついにみんなで来たんだね」

「はい、お待たせしました」

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