48話

「ぬぉっ」

 ステノが、素っ頓狂な声を上げた。

 突然、コキノレミスが消えたのだ。肉体に戻った、ということだろうか。

「どういうことだろう」

「魔法が切れたのか」

「あれだけ準備しといてそんなことがあるかなあ」

 もちろん、向こう側で予想外の事態が生じている可能性もある。

「おい、フリソス。なんか、腹が膨れてこないか」

「え、そんなことが……あるな」

 自分の体がどうなっているのかはさっぱりわからないのだけれど、不思議と何かが満たされていくのが分かった。

「これはあたしの考えだが……無理やり詰めこまれているな」

「確かに、埋まっていく感じはあるけど、うまいという感じはしない」

 胃に直接食料を流し込まれているような不快感。吐き気がしてくるが、吐くとしたら体の方だ。

「ごめんなさい……」

「おおっ、いつの間に」

 振り返ると、コキノレミスが戻ってきていた。しょぼんとしているように感じる。

「レミス、なんで謝るんだ」

「ぼくがもっとつめしょうぎとけたら、いいものがたべられたの……うっうっ……」

「そういうことか」

 魔族たちにしてみれば、俺たちの存在は必要であり、死なせるわけにはいかない。ただ、だからといって余裕を持たせては、彼らの望み通りに事は運ばない。だから「死なせはしないが、コキノレミスが強くならないと不快感を与える」といった手法をとってきたのだろう。

「レミスはちゃんと食べられたのか」

「なんかぐちゃぐちゃのをのみこまされた……」

「死なないためだけの食事、か」

 コキノレミスだけが呼び出され、問題を解かされる。解けなければ三人の食事は劣悪なものとなり、ただ生かされるだけの体となる。

「うっうっうっ……」

「大丈夫だ、コキノレミス。指導者がしっかりしていたほうが、お前も成長できる。そこまで俺を劣悪な状態にすることはないだろう」

 殴られたような衝撃。ちゃんと痛い。

「あんた、『俺は』って言ったな!」

「仕方ないだろう、俺は指導棋士だけどステノは違うんだから。ただ、ステノにも大事な使命がある」

「使命?」

「ああ。君は、振り飛車を極めるんだ」

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