47話

 人間と魔族の子供。コキノレミスの出自に関しては、そこまでしかわかっていなかった。彼は父親を救いに来たのではなく、殺しに来た。それも大いなる謎だ。

 彼の話を総合すると、次のようになる。

 

 コキノレミスは、母親の顔を知らない。生まれた時から父親と二人暮らしだったが、彼にはその自覚がなかった。球が母親だったからだ。

 球は、子供の手の中に収まるほどのサイズだという。色は白いが、時折様々に変化する。コキノレミスの部屋に置いてあり、話しかけると答えてくれる。

 厳密に言うと、その球が母親であるという保証はない。あくまで自称母親なのである。物心ついたときから、コキノレミスは球と話していた。ただし、父親がいるときは一切球は話しかけなかったという。

 球は少しずつ、息子に家族のこと、そして魔族のことを話して聞かせた。父親は魔族の血を引くものであり、いずれダンジョンに向かおうとしている。そして、それを止めなければならない、ということも伝えていた。

 母親は、魔族の血を復活させる力のある人間だったようだ。それを知ったのは妊娠してからだった。コキノレミスを産んだ母親は、息子を連れて逃げ出そうとした。しかし父親、ダスカロスは二人を捕まえ、母親を球の中に閉じ込めてしまった。殺さなかったのは、母親がいないとコキノレミスの力も維持できないからではないか、ということらしい。


「しかし、どうして母親に好きにしゃべらせたんだろうね」

 ステノが、首をかしげる。確かに、そこは謎だ。

「たぶん……とうさんは、しゃべるちからもうばったとおもいこんでいたから」

「母親の力が、想定以上だったってことか」

「……うん、でも……」

 息子に力を与えているということは、自らの力を分け与えているということなのだろう。いずれ、力は尽きてしまうかもしれない。

「今、俺たちに期待されているのは鍵をこじ開けて、コンピュータの指揮権を奪うことだ。そうしなければいずれ目覚めたコンピュータは再び地上の支配を目論むだろう。けれども、指揮権を握った魔族も、人間に復讐するはずだ」

「何もいいことないな」

「そうなんだ。それでも、ここから出るには……何かしないといけない」

 このままではいわゆる「じり貧」というやつだ。

「どうするんだ、フリソス」

「ふりそす……」

 二人の視線を感じる。人類の未来がかかっているかもしれない決断は、震える。

「俺が考える最善策は……」

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