45話

 コンピュータは、ダンジョンのあちこちに鍵をかけ始めた。将棋が強くなければ開けられないものだ。

 そして、モンスターたちが地上に放たれる。見たこともない敵の出現に、人間も魔族も対応できなかった。地上は徐々に、コンピュータの支配下になっていった。

「しかし、こんなことは歴史に残っていない」

「そうだろうね。不都合だもの」

「人間にとって?」

「そう」

 俺たちは今、生き残っている。大きな敵に勝ったとすれば、その歴史を誇っていいはずだ。しかし実際には、コンピュータと戦ったという記録は、人間の側には残っていない。

 コンピュータの方は、モンスターの目を通して様々な土地で映像記録を残していたようだ。人間の町、魔族の集落が、次々と落とされていく。しかしある時、変化が訪れた。人間と魔族が共に戦い、モンスターを撃退したのである。

「同盟か」

「最初はそうじゃなかったよ。個人と個人、数人と数人がつながって、共闘したんだ。もちろん、そうはならなかったところも多い。争ってきた事実は、重たいからね」

 人間と魔族の間には、深い憎しみがある。と聞いている。数日前まで、俺は魔族を見たこともなかった。実在するかもよくわかっていなかった。

 正式に共闘することになった人間と魔族は、ついにダンジョンに攻め入って反撃に出た。魔族がモンスターを率いて道を切り開き、人間がトラップを解除していく。連携は、うまくいっているかのように見えたが。

「これは、あんたじゃないのか」

「そうだね」

 地下深くなるにつれて、苦戦する者が増えていく。モンスターも強くなるし、食料も尽きてくる。そんな中、先頭になって戦っているのは魔族の王だった。

「強いな」

「こつがある」

 王は、かなり戦い方が巧妙だ。様々な角度からの映像が残っている。コンピュータも脅威と感じて、研究していたに違いない。

 ダンジョンは、刻一刻と形を変えていく。生命と機械の、白熱した攻防が続いていった。

 しかし、どうしても人間も魔族も、最後の鍵を開けることができなかった。

「あんたが、生贄になったのか」

「それはどうかな。魔力で干渉すれば故障してくれるんじゃないか、という目論見もあったよ。時間を稼げば最終問題を解ける人間も現れるかもしれない、とも」

「けれども、人間はそこを目指さなかった」

「いやあ、してやられたよ」

 コンピュータは無力化され、魔族の王の力も封じられた。人間はその機会に、魔族をも攻撃したのだ。

 ひどいと思う人もいるだろうが、当然の結果とも考えられる。一度共闘したからと言って、永遠の味方になることを誓ったわけではないのだ。

「人間は出し抜いた代わりに、未来を傷つけたわけだ。いつか復活するコンピュータに対して、対策をしていなかったんだから」

「そういうことだね。このままだと、今度はあっという間に敗北する可能性がある」

「そいつは、まいったね」


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