44話

 町の中に、人が溢れていた。光景が、頭の中に繰り広げられる。

「これは……」

「データの中に残っていたものだよ。コンピュータはかなり初期の段階から、人々を監視していたんだね」

 コンピュータはもともと、人間が利用する道具として作られたものだ。しかしそれゆえ、人間よりも高度なことが可能になる。コンピュータ自身が意思を持ち、すべきことを考え出したのだ。

 映像の中の人々は、まだそのことに気が付いていない。

「元々ここは、人々が逃れてくる場所だったようだ」

 様々な理由で、地下に住むようになった人々。深い階層に町を作り、文化的な生活を営んでいたようだ。モンスターもいたようだが、このダンジョンで見るのとは違う、一般的なものだった。

「将棋をしている」

「流行ったんだ」

 地下の人々は、将棋を楽しんでいた。道場を作って、毎日のように大会が開かれた。そしてコンピュータと対戦する人や、深くまで研究する人も現れた。

「コンピュータを将棋に利用したのか」

「正確には違う。将棋に利用するために、コンピュータを開発したんだ」

 孤立した土地での人々の執念が、独自のコンピュータを築き上げた。巨大な墓石に見えたものの中では、魔力が渦巻いて計算している。

 そして、次の映像は異様だった。一面に広がるいくつもの将棋盤と、高速で動き続ける駒。同時に何百局という対戦が行われているようだ。

「これは……棋譜の再現?」

「コンピュータの自己対局だよ。人間が利用しない間も、自らの意志で、自分対自分で対局を続けていたんだよ」

「ちょっと待て、すでに意思を持っていることになるじゃないか」

「そうなるね」

 おそらく、コンピュータも人間と同じで、将棋の探求をしたい気持ちだったのだろう。だが、これではすぐに人間は追い越されてしまう。

 光景が切り替わった。街に人がいない。そして、モンスターが徘徊していた。現在このダンジョンで見るタイプのものだ。

「人々が滅ぼされたのか」

「駒を使うように、モンスターを使って何ができるのかを理解したんだろうね。将棋では敵がいなくなったので、人間や魔族全体に対して勝負を挑むことにしたんだろう」

「勝負にとりつかれていた、と」

「そういうこと」

 支配欲でも敵対心でもなく、好奇心だったのだろう。どこかで、共感してしまう。

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