電脳

42話

 立ち上がった男は、巨大だった。俺より頭三つ分は大きい。

「ダスカロス、信じていましたよ」

「まったく、役割が多いぜ」

 ダスカロス。それがコキノレミスの父親の名前だった。何か意味のある響きだと思ったが、思い出せない。

「おとうさん……」

「よくここまでたどり着いたな。まあ、それでなくちゃ困るんだが」

 コキノレミスの瞳から、涙が流れていた。それでも、じっとダスカロスを見つめている。

「おとうさんがいきていると、たいへんなことになるんだ」

「どういうことだ、レミス」

「おとうさんは、ぜんぶこわしちゃうんだ」

「壊す?」

「おっと、喋りすぎはよくないな。お姉さんと一緒に、お母さんの所に行くことになるぜ?」

 ダスカロスは、右腕を振り上げた。指先から、鋭い爪が伸びている。そして、青白い光が手のひらの中で渦巻き始めた。

「いかん、それを食らったらひとたまりもないぞ!」

 キクノスが叫んだ。魔法使いには、そのやばさがわかるということか。

「コキノレミス、お前なら救えるのか?」

「えっ」

「父さんは残念ながら、最後のカギを開けられない。だから、壊すしかないんだ。でも、お前なら開けられるかもしれない。魔族の血を引く中で、唯一将棋の可能性が残された存在なんだ」

 青地い光が、だんだんと広がっていった。これは、防ぎようのないものだ。何かはわからなくても、何かしらのやばさはわかる。

「避けろ! ぐあっ」

 声を出すと同時に、頭を地面に押さえつけられた。山小屋の親父、隠していたようだがとんでもない馬鹿力だった。

「とりあえず、眠るんだな」

 ステノが、コキノレミスを抱きかかえていた。目の前の光景が、ぼんやりとしていく。頭の中も、ふわふわした感じになっていく。

 心が、落ちていく。

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