39話

「コンピュータ……」

 キクノスは、口に手を当てて考え始めた。

「おいおい、そんな伝説上のものを信じるのか」

 ステノは、首を横に振っている。まあ、普通はそう思うだろう。

「確かにそうだ。どんな魔法よりも不思議な道具、コンピュータ。実在の痕跡はこれまで見つかっていなかった。ただ……このダンジョンには、その痕跡がある。はり巡らされたネットワーク、ギミックの作られ方……そしてさっきの巨大な部屋。コンピュータにはいくつもの計算のための箱が必要で、稼働されると大量の熱を発していたという。だから熱を管理するモンスターがいた」

「正解ですよ。フリソスさん、期待以上です」

 部屋の電気が明るくなった。通路にも光があふれている。

「あっあっ」

「どうした、コキノレミス」

「いえでみた」

「見た? 何を?」

「え。こういうかんじの、えがあるの」

 こういう感じ。将棋道場に光がともった感じ、だろうか。

「そうですよ、王の血を引く子。あなたが見てきたのは、ここです。私たちの力で、町を再起動しました。あなたたちは、ここで暮らすのです」

 ふざけるな、と思ったが、誰も声を出さなかった。俺も、考え込んでしまう。

 ここでカルディヤを倒しても、地上への戻り方はわからない。それどころか、この町も機能しなくなってしまうだろう。言いなりにはなりたくないが、状況が不利なのも事実だ。

「ここで暮らすと、何が起こるんだ」

「王を開放します。いえ……王の力を、入れ替えます」

「入れ替える?」

「このままで王の力は潰えます。そうなれば、コンピュータを抑えることはできません。再び起動したコンピュータは、モンスターを地上に放つでしょう。そうすれば……人類も魔族も終わります」

 カルディヤは、壁に手を当てた。すると、ぼわっと扉が浮かび上がってきた。俺には読めない字が、いくつも書き込まれている。

「もう一人、会わせなければいけない人がいます。来てくれますか?」

「拒否したら?」

「何も起こりませんね。皆様には餓死していただくこととなります」

 キクノスを、ステノを、見る。二人とも、口を歪めながら頷く。

「わかった。お前の言うとおりにしよう」

 文字の一部を、カルディヤが指でなぞった。扉の色が薄くなり、消えた。

「知的な人たちでよかったです。さあ、どうぞ」


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