37話

「あ」

 鉄格子から中をのぞいていたコキノレミスが、何かを見つけたようだった。

「どうした」

「つめしょうぎ」

「問題があるのか」

「いってづめっ。にいさんぎんなりっ」

 さすがに即答できるようになった。成長したものである。


 ガタンッ


 嫌な音がした。遠くからだ。

「確認してきます」

 エレガティスが走った。キクノスの眉が八の字になっている。

「閉まってました」

「やはり……」

 ギミックで開いた扉は、中に人がいるときには閉じることがない。ただ、時には中に扉を閉じる罠があることがある。

「ごめんなさい……」

「いや、コキノレミスが悪いんじゃない。必ず誰かが解いただろうさ」

 将棋指しというのは、詰め将棋を見ると解いてしまうものである。だから、この罠はほぼ成功するものだ。

「とにかく、出口を探さねばならんのう。もしくは、入れる扉を。水やジュースの出る部屋でもあるといいんじゃが」

 相変わらず食料もない。ましになったのは寒くないことぐらいだ。

「まったく、ろくなことがないな」

 ステノは壁を蹴っている。よくない兆候だ。極限状態に近づくと、簡単にパーティーの信頼が崩れることはある。そして今いる俺たちは、もともとの仲間ですらない。

「これから素晴らしいことが起こりますよ」

 突然の声だった。それは、駒の扉の中から聞こえてきた。ギィィィ、と鈍い音を立てて、扉が開く。

 額の上に、二本の短い角。背中には、大きな黒い翼。

「うわっ」

「なんと……」

 山小屋の親父とキクノスは、目を丸くしていた。初めて見ればそうなるだろう。意外にもエレガティスは落ち着いていた。

「カルディヤ」

「名前、覚えててくれたんですね。待ってましたよ」

 魔族は、口元を緩ませずに、目だけで笑った。


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