25話

「王の魂? 何を言ってるんだ、まったく意味が分からないぞ」

 ステノの口がへの字に曲がっている。確かに、そんな話を出されても、だ。

「悲しいですね。あなたたち人間のために尽くしたのに。まあいいでしょう。この倒錯した歴史もここで終わりです。ダンジョン最後の鍵が、開くときが来たのです」

 目の前の地面が、盛り上がる。大きな赤いトカゲのモンスターが現れた。

「これは……サラマンダー! 簡単に召喚するんだな……」

「人間の男、本当に知らないのですね。この部屋はかつてこのダンジョンを攻略するために作られた部屋。魔族……そして人間がダンジョン内に獲得した、基地です。ここでは、魔力が思う存分使える」

 絶望的だった。魔法陣の効力も強いだろう。

「どうするんだ、フリソス」

「どうするもなにも……」

「さあ、渡してもらいますよ」

 サラマンダーは、明らかに俺に視線を向けていた。口を開くと、熱風が吹き付けてくる。

「正直、サラマンダーの弱点はわからない。ただ、一つ気付いたことがある」

「なんだ」

「これまでカルディヤ自身は一切攻撃してきていない。あいつ自身は戦闘能力が高くないかもしれない」

「かもしれない、で賭けるのか」

「形勢の悪い終盤は祈ることも大事だ」

 袋から、駒を取り出す。とにかく、やってみるしかない。

「召喚、金兵!」

 駒が大きく成長し、盾を構えた金の兵士が現れる。

「仕方ない、あがいてやるよ! 召喚する、銀兵よ!」

 ステノの銀兵は棍棒を持っていた。召喚する人間によって、召喚兵の様子は少しずつ違う。

 二体の兵が、サラマンダーに向かっていく。太い足が、金兵を襲う。なんとか受け止めている。銀兵のこん棒が、サラマンダーの肩口にヒットした。しかし、効いている様子はない。

 ただ、注意は完全に引き付けた。

 その横を、俺は駆け抜けた。剣を抜き、まっすぐにカルディヤに向かう。王将を詰ませば、勝ちだ。

 だが、目の前が一瞬真っ暗になり、次の瞬間には体が床に崩れ落ちていた。あごが痛い、そして濡れている。

 なんとか視線をあげると、こちらを見ている二つの目があった。魔族ではない。鱗に覆われた顔。水がめから上半身だけ出した男。

「マーマン……」

 水場にしかいないはずのモンスターだ。あれを召喚するための水がめだったとは。

「残念ですね。私、作戦は練る方なんです」

 カルディヤの楽しそうな声。勝利を確信しているに違いない。そして俺も、敗北を確信していた。

 その時、幼い声が響き渡ったのだ。

「ば、ばんじゅつっ、にふつっぱりぃっ」

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