魔族

23話

 起きた。ステノもコキノレミスもまだ寝ていた。

 浮遊感がない。地面があるはずだ。

「誰もいませんように」

 警戒しながら外をのぞくと……

「ぶへえ!」

「うおっ、何だいったい」

「どうしたのっ」

 二人が飛び起きた。

「出るな。いや多分出ないほうがいい事態だ。うん、確実に」

「何なんだ。はっきりしろ」

「魔法陣に囲まれている」

 信じがたいことだが、平らな石畳の上に、複雑な文様が描かれていた。遠くに二つのたいまつ、そして大きな水がめ。どういう効果があるものかはわからないが、どう考えたって魔法の効果があるものだ。

「どういうことだ、おい」

「俺にわかるか」

「お前が寝た方がいいとか言うから!」

「起きててもどうしようもなかっただろうよ」

 草一本生えていない。冒険者カードを見るが、反応がない。Wi-Fiも圏外のようだ。

「どこなんだ、ここは。あたしは見たことがないぞ」

「俺もない。記録にもなさそうだなあ」

 ダンジョンの構造は、全てが解明されているわけではない。だからこそ探求しがいがあるともいえるが、今の俺は指導棋士なので未知なる領域は興味ないのである。

「ぼくたち、どうなるの?」

「連れてこられて、閉じ込められたんだ。何かに利用されるんだろう」

「何で冷静にそんなことが言えるんだ」

「棋士は冷静でなくては」

「冷静に打開策を考えてくれ」

「長考が必要だなあ」

 実際、できることはないと思う。こちらは魔術に詳しくない。そしてテントを飛ばし空間を超越させる相手だ。普通に考えて勝てっこない。

「今なら逃げられるんじゃないのか?」

「そうさせないための魔法陣と思うけどなあ。それに、ほら」

 こちらに向かってくる人影があった。黒いフードにマント、いかにもである。

「魔術師のお出ましだ」

「えっえっ」

「やばいじゃないか」

 確かにやばい。だが、初めて姿を見せてくれた、とも言える。これまでは、モンスターの裏にいるものの存在は認識できなかった。

「まじだ。怪しい」

「つよそう」

 正直、ああいう感じのを敵に回した覚えはない。人違いだといいのだけれど。

「見付けました。二人目です。運がいいです」

 カラッとした声だった。町で出会ったらいい人だと思うだろう。

「誰に用があるのかな。将棋の指導ならここまでしなくてもちゃんと受付中だけど」

「ごめんなさい。君じゃないです」

 良かった……とは思わなかった。もしステノに用があるのだとすると、冒険者を操った時のことが説明できない。とすると。

「なんだ、あたしに用があるのか。強い男が好きなんだが」

「もちろんあなたでもありません。人間には、用はないです」

 男が、フードとマントを脱ぎ捨てた。

「何だと、あんた……」

「えっえっ」

 額の上に、二本の短い角。背中には、大きな黒い翼。

「迎えに来ましたよ、魔族の末裔、コキノレミス」

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