22話

「せまいな」

「誰のせいだと思ってるんだ」

「怖がる女性を一人にしておくつもりだったのか!」

「いやまあ、そうは言われてもねえ」

 テントの中は満員である。結局怖がるステノは、一人で寝ることができないと言い始めたのだ。

「だいたい私は指導料以上払っている。権利はあるはずだ」

「むしろいいのか、これで」

 コキノレミスは小さいので何とかなっていたが、さすがにテントに三人入ることは想定されていない。考えた結果、ステノのテントをぴったりとくっつけそちらには三人の荷物を入れた。

「大丈夫だ。触れたらきちんと殺すから」

「えっえっ、すての、ふりそすをころすの?」

「ははは、分別があることを信じるぞ」

 なぜか霊にビビっているステノのほうが偉そうである。しかしお金をもらっているのも事実なので、なんかちょっと悔しい。

「あのね、いつもさんにんでもいいよ」

「どうしたレミス」

「……なんかね、きっとね、かぞくみたいだとおもったから……」

 ステノと、顔を見合わせる。

「父と姉か」

「何故」

「あたしには妹がいるからな。いいぞ、レミス、存分にお姉さんと思え」

「あっ、えっ、うん」

 俺は家族を全く知らないから、何役もピンとこない。コキノレミスが何かを感じるのならば、それに任せよう。

 感じる?

「ちょっと待て、霊感はないんだが」

「どうした」

「やばい感じがする」

「あたしはずっとしているけどな」

「いやなんて言うかね、出会ってはいけないというかね……」

 さらに、ふわりとした感覚が襲ってきた。感覚? いや、これは……

「とんでるっ」

「やっぱり!」

 この浮遊感、実際に飛んでるときのやつだ。飛んだことがないので気が付かなかった。

「飛んでる……よな。床が平らなのはどうなってるんだ」

「フリソス、飛んでるのもだが、かなりまずいことがあるぞ」

「ん?」

「荷物が」

「ああ!」

 あわてて入り口から顔を出す。すでに地面、そしてステノのテントはかなり下に見えていた。十メートルは上昇している。

「ステノが一緒に寝るなんて言うから……」

「私のせいだって言うのか!」

「せまいから暴れないで」

 本当になすすべがない。敵がいるということは、確信に変わりつつある。さきほどの全滅パーティーのことも併せて考えれば、冒険者全てに対しての敵、と考えられるだろうか。

「とにかく、できることはない」

「達観しすぎだろ」

「あきらめも肝心だ。攻撃されているわけでもないし、とりあえず……」

「とりあえず?」

「寝よう」

「あんた、どんな神経してるんだ!」

 将棋も冒険も、神経が太くないとやってられないのである。


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