21話

 盤術を使うには、その戦法が指しこなせなければならない。例えば俺の場合、相掛かりや筋違い角の盤術は使えない。多くの棋士は、矢倉や対振り飛車急戦と言ったところから使えるようになる。

「師匠が、突然亡くなったんだ。振り飛車党の復権を目指す、志半ばで」

「なるほどねえ」

 振り飛車党は、現在苦難の時にある。アマには人気だが、棋士の間では年々採用率が下がっている。当然盤術の使い手も減少の一途である。

「ダンジョンに来たら、強い振り飛車党に会えるかと思った」

「いないねえ」

 足を止める。疲れたのだ。

「とびら、ないね」

「まったく、どうなってんだよ」

 もう、半日ぐらいずっと草原を歩いていた。以前あったはずの扉が、全く見つからない。

 ダンジョンの構造が変わることは、たまにある。とはいえ、扉のない部屋というのは聞いたことがない。入ってきた扉も消えている。

「部屋全体に魔術が掛けられていたのかもしれない」

「そんなことが在り得るのか」

「わからない」

 ダンジョンにはまだ謎の部分も多い。とはいえ、この階層までなら多くの人が訪れるし、安心だと思っていた。

「あっあっ」

「どうしたレミス」

「ひと」

 コキノレミスはよく気が付く。指さす先に、何人か倒れていた。罠に気を付けながら、近付く。

「息はなさそうだ。残念だったな」

「損傷は見当たらないね。あ!」

「どうした」

「こいつは……」

「あっ、いやなやつ」

 見覚えのある顔があった。この前、俺に勝負を挑んできた男だ。

「新米だよ。俺より将棋は強かった」

「運は弱かったというところだな」

「俺たちも出口が見つからないと変わらないけど」

「考えたくないことだが」

 すでに、光が落ち始めている。暗闇の中進むのは危険だ。霊の力も強まる。

「泊まるしかないか」

「ここでか」

「何か問題でも? いや、問題はあるけど、進むのはちょっとなあ」

「そんなことはわかっている! けど、夜の草原だぞ。ただでさえだなあ」

 ステノが、目を伏せている。変だ。

「まさかお前、霊が怖いぶあっ」

 やっぱり殴られた。図星だったようだ。

「昼間はそうでもないぞ! だが夜はやばいだろう。あんたは怖くないのか」

「怖くないわけじゃないけど、びびっても仕方ないしねえ」

「楽観派め……」

 霊を怖がるかどうかは本当に人それぞれだ。ちなみに俺は高所恐怖症だが、これも理解されない人にはされない。

「コキノレミスは霊が怖いか」

「うん。でも、みえるもんすたーのほうがこわい」

「ああ、そうだったな」

 怖いものは人それぞれだ。助け合って乗り越えるしかない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る