20話
「来てしまったな」
コキノレミスが問題を解き、草原への扉が開いた。ここに関しては俺が解答しても良いかと思ったのだが、彼はしっかりと五手詰めを解けるまでに成長していたのだ。
「特に問題はないように見えるぞ」
「とはいえ、そもそも霊は見えないものだし」
霊感のない人間にとって、霊はいないも同然である。霊によって何か問題が起こっても、何の仕業かわからないのだ。
ただ、あからさまな場合は違う。霊を操るものがいて、大掛かりな攻撃を仕掛けてきたとしたら。
「行くしかないだろう。フリソス、びびっているのか」
「びびってはないよ。いやだなあ、と思ってる」
「あっあっ」
「どうした、レミス」
「ばった」
コキノレミスが指さす先には、バッタ型のモンスターが何匹かいた。アクリーだ。大きさはだいたい猫ぐらい。草原にはよく出るやつで、それほど脅威ではない。
「あたしが倒そう」
ステノが、一歩前に出た。その時、アクリーたちも一斉に動いた。何かがおかしかった。そもそも規律を持って動くようなモンスターではないのに、先頭が一列に並んでいるのだ。
「きゅうひきっ」
「何がだ? あっ、止まれ、ステノ!」
こちらから見て左側の一匹が、飛び出してきた。その後ろに控える大き目の一匹。数えると、全部で二十匹いる。
居飛車の陣形だ。
どうやら、飛車先を伸ばした後はすぐに攻めてこず、船囲いへと移行している。
草原だから霊、というのが思い込みだった。まさか、草原のバッタを操ってくるとは! しかも、ちゃんと将棋の戦術を使っている。モンスター版盤術と言ったところか。
「なんだっていうんだ! 使うしかないのか……」
ステノは空中に駒を投げ、右手をくねくねさせる謎のポーズをとった。
「盤術、メリケン向かい飛車!」
「め、めりけん?」
現れた兵たちが、左側がぐんと盛り上がった隊列を組む。俺も初めて見た盤術だ。とにかく相手の飛車先を逆襲することに特化した戦法。
振り飛車を習いたいと言っていて、メリケン向かい飛車は使えるということか。謎だ。
アクリーの戦法に対して、ステノの盤術はとても効果的だった。飛車先をじわじわと押し返し、相手陣を食い破る。次々とアクリーは倒されていった。
「すての、すごい」
「ああ、マイナー戦法を使いこなしている」
あっという間に、モンスターは一掃された。ただ、ステノは大きく肩で息をしていた。
「大丈夫か」
「平気だ、ただ、盤術を使ったのは一年ぶりぐらいだからな」
「そんなに」
「それと、これは言いたくなかったのだが……あたしは、これはしか使えない」
「え」
「あたしは師匠から、メリケンしか習わなかったんだよ」
ステノは、頬を赤らめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます