18話

「二日ほど、指導できない」

「えっえっ」

 目が覚めたのは、夜。五時間ほど眠っていたようだ。俺は、コキノレミスとテントの中にいた。

「盤術は棋力ポイントを消費する。棋力ポイントを使うと、しばらく将棋の力がなくなってしまうんだ。今までの経験だと、二日ほど経たないと元の状態に戻らない」

「そうなんだ」

「しかも、棋力ポイントはなかなかたまらない。もう一度盤術を使うことはできない。次にやばいのが現れたら、どうしようもない。あと、駒が足りない」

「そうなんだ。……あっ、すてのは?」

「ううむ、どうだろうな」

 ステノは自分のテントにいるはずだ。が、少しでも聞こえたら飛んできて殴られかねないから言葉を選ぶ。

「少なくとも、指導をしている様子はないから、期待はできないか……ん?」

 何かがひっかかる。答えが見えているのでは?

「そうか。とりあえずはそうすればいいのか」

「なに?」

「二日間はステノにお前を指導してもらおう。彼女の棋力ポイントも溜まるし、何もしないよりはいいだろう」

「うんっ」

 とはいえ、彼女が盤術を使えるかはわからない。召喚兵術は使えたが、あまり慣れているようには見えなかった。そもそも、どちらも将棋の強さが反映される。いざとなった時の彼女は、俺よりも弱い。

「ケルベロス、か」

 ネクロマンサーに関しては、姿を確認していない。だが、ケルベロスは見てしまった。確かにいたのだ。すでに討伐ポイントも反映されている。事務局の方も、「絶対にいないもの」とは思っていなかったことがわかる。

 やはり、何かが起こっている。

 となれば、コキノレミスの父親も早く探し出す必要がある。一人で深くまで潜るのは、普段よりもさらにリスクが高いかもしれないのだ。

 


「えー、ちょっとそれは高くない?」

「いやいや、売ってるだけですごいと思うよ」

「そうは言いますけどねえ」

 モンスターではないが、なかなか厄介な相手である。こちらとしても、簡単に引き下がりたくはない。

「おーい、まだか」

「ふりそす、なにしてるの」

「値切りだ。さっさと買えばいいのに」

 ダンジョンにおいて、貧乏ほどつらいことはない。とにかくお金が必要なのだ。

「欲しがってる人は他にもいるからねえ。これで無理なら他をあたって」

「……わかった。ポイント払いで」

 しかし駒は貴重品、こちらが折れる展開になることが多い。

「まいどありー」

 走り去っていく行商人。ケルベロスの討伐ポイントがあったとはいえ、そんなに黒字になっていない。ポイントは倒した人数で割られる。パーティーだと少しお得なのだが、いろいろと制約も多くなる。

「あっあっ」

「どうしたレミス」

「おとしもの」

 見ると、床に小さな紙の束が落ちていた。さっきの行商人の帳簿か何かか。

「まったく、しょうがない奴だなあ。これ届けたらなんかもらえるかもしれ……おいっ」

「もっていってあげるっ」

 ステノの手をすり抜け、コキノレミスは帳簿を拾って行ってしまった。あっという間に見えなくなった。

「モンスター居たらどうするんだ」

「追いかけよ……あ」

 二人が動き出そうとした時、コキノレミスが戻ってきた。

「よかった。行商人は足が速いんだ、ちゃんと準備してから三人で行こう」

「まにあったっ」

「え」

「とどけたよ。ありがとうって」

 ステノと顔を見合わせる。いやいや。相手はプロだぞ。追いつくだけでもすごいのに。

「お前の足はどうなってるんだ」

「えへへ」


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