盤術

17話

「どういうこと?」

 コキノレミスの目が点になっている。しかし説明している暇はない。ケルベロスの頭の一つが振り返り、ステノの動きを確認した。

 駒袋に手を突っ込み、全ての駒を取り出した。

「盤術、矢倉3七銀戦法!」

 約半分、二十体の駒がむくむくと膨れ上がっていき、膝ぐらいまでの大きさになった。召喚兵に比べれば小さいが、それぞれが武器や盾を持っており、強力なチームとなっている。

「すごいっ」

 そして兵たちは、矢倉3七銀戦法の基本配置に並ぶ。左側は防御、右側は攻撃に適した布陣だ。

「お願いします!」

 ケルベロスの体がこちらに向きおなった。左の頭が飛車兵をくわえている。ステノは剣を構えるが、すでに右の前足が振り上げられている。

 歩、金、銀たちがステノの前に出て、盾を構えた。なんとかケルベロスの前足を受け止める。右側では飛車角銀桂が、向かって右の頭を集中して攻撃。角は破壊されたが、首元に飛車の攻撃が突き刺さり動きを止めた。

 残る頭は二つ。真ん中は少しだけ負傷あり。左側はなぜか飛車兵をくわえたままである。

「駒も食うのだろうか」

 もともと木でできているし、食べられないこともないだろう。口を開けられないなら僥倖だ。

「ステノ、そいつらと入玉しろ!」

「えっ、あんた何を言って……そうか」

 守りの駒は、攻めれば当然攻めの駒になる。そして、盤術が将棋と異なる点。それは、王将をとられても負けにならないところだ。王将はどの方向にも素早く動くことができる、有能な攻め駒となる。

 金銀歩、桂馬に香車そして王将と共に、ステノが真ん中の頭に襲い掛かる。そして、俺も扉から出ていった。大量の敵に気を取られている、向かって左の頭めがけて、剣を振るう。のど元を切りつけ、さらに真ん中で仕事を終えた駒たちも何枚かやってきて、目を突き頭を砕いた。

「やったな」

 すべての頭が、動きを止めた。ケルベロスの体が、崩れ落ちる。

「ケルベロスを、倒しちまった」

 俺も、その場に倒れ込んだ。体力の限界だった。

「大丈夫か」

「ふりそすっ」

「いやあ、盤術は疲れるね。一度にあれだけ動かすのは」

「見事だった。ひ弱なやつだと思っていたが、盤術に関しては一流だな」

「それはどうも、しかしだ……」

 目の前が、暗くなっていく。あ、気を失うわ、これ……

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