15話
「うむ、ここだな」
コキノレミスとステノ、二人の視線を感じる。液晶画面に触れると、詰将棋が現れる。駒が無茶苦茶多い入玉系の詰将棋だ。
「本当に大丈夫なのか。ここ、有名なイレギュラー部屋だぞ」
女戦士の冷たい声。それもそのはず、この先に進む扉はこの階層にはありえないほどの難問が鍵となっており、中に入る冒険者はめったにいないのである。
だが。俺は終盤、特に詰将棋が得意だ。
「解けた」
43手詰め。10分ぐらいかかっただろうか。
「すげえな。いつもあんな感じなのか、レミス」
「はじめてみたよ。いつもぼくがといてるから」
「あんたもすげえのか」
「ぼくはまだかんたんなのしか……」
心配していたのだが、コキノレミスとステノは意外とうまくやっている。考えてみたら、コキノレミスは悪口とか言わないので、そこさえ守っていれば大丈夫なのかもしれない。
「よし、入るぞ」
「安全なのか」
「入口にこれだけセキュリティかけてるんだ。中にまで仕掛けはないだろう。……たぶん」
今まで致命的なトラップにかかったことはないが、だからと言って自分の勘がいいのかわからない。運の方がいいのかもしれない。
「わっわっ」
「なんだここは」
扉の向こうは、石壁の広い部屋だった。空気感がこれまでとはまったく違う。奥の壁には水が滝のように流れており、池が作られている。そこから時折、噴水が上がる。
「『純水の部屋』だ。他の水場と違って、ミネラルウォーターらしい」
「水道ではないということか」
「ということかな。湧き水かなんかを引っ張ってきて、こういうのを作ったんだろうな。ちょっと作られた年代とかも違う気がする」
池に近づき、水筒で水をくむ。
「のむのっ?」
「ああ、これは届けるんだ。山小屋が水汲みのクエスト出していたから」
「あたしもそれ、受けておけばよかった」
どういうわけか、この部屋にはモンスターが出ないらしい。将棋の強い者だけが入ることができるいい水の部屋。不思議なところだ。
「文字が書いてある」
「ああ。知らない文字だ」
天井には、ところどころ模様があり、その中には文字らしきものもある。しかしそれが何なのかはよくわからない。ダンジョンには研究者が入ることもあるが、出る者は少ない。ダンジョンの意志が研究者を呪うという噂があるぐらいである。そんなわけで、多くの謎は解明されないままである。
「さてと。水も手に入れたし先を急ぐと……!」
「どうしたフリソス」
「あっあっ」
確かに、純水の部屋にはモンスターが出なかった。しかし、元いた部屋にでっかい影が見えたのである。
「頭が三つ……ケルベロスだ」
「はあ、そんなものがいるわけないだろ……いるね」
目つきも牙も鋭い、三つの犬の頭を持つ魔物。それが、こちらの様子をうかがっている。
やはり何らかの魔法的効果があるのだろう、扉を越えてくる様子はない。背の高さは俺と同じぐらいだろう。ケルベロスとしてはどうか知らないが、犬としてはかなり大きい。
「この部屋にいる限り大丈夫だろう。ただ、扉はあそこしかない」
「あちらが諦めるまで待つか」
「そうなればいいけど……一つ困ったことがある。この部屋は飲食及び喫煙が禁止だ」
「……はあ?」
「な、なんで」
「純水を守るためだ。それほどこれは大事なものなんだ。そして違反すれば、十年は牢屋の中だ」
というか、そんなことも知らない二人を引き連れているのか。頭が痛い。
「ケルベロスと戦うか、飢えと戦うか。籠城戦ってやつだな」
「部屋に入る前に飲んでおくんだった。すでにのどが渇いてるんだが」
「じゃあ、ちょっくら戦ってくる?」
ステノは黙り込んだ。普段は威勢がいいが、冷静な判断力も持ち合わせているようだ。ケルベロスは、とても手ごわい。
「しばらく様子を見よう」
「じゃあ、将棋でもして待つか」
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