13話

「ふりそす、にふ……」

「え、ああ、すまない」

 今日、二回目だ。指導対局で反則をしてしまうなんて。

 再びダンジョンに潜った俺らは、前回よりも深いところを目指している。一人旅で目立つ人間ならば、「山小屋」などの人に聞けば情報が得られるのではないか、と考えている。実際には地下なのだが、営業方法が似ているので、地下深くの宿泊施設は山小屋と呼ばれているのである。

 そして。そこにたどり着くだけの力を付けたら、俺の役目も終わりかな、と思っている。そこから先は一人で進むのは無理だし、俺が手伝うにしても難しい。何とかしてやりたい気持ちはあるけれど、それは契約の範疇を越えている。

「つかれてる?」

「いや、すまない。そうかもな」

 実際は、気持ちの問題だ。情けない姿を見せてしまったとの思いが、全く抜けない。


ジュジュジュ


 変な音が聞こえてきた。振り返ると、ゆっくりとこちらに近づいてくる影が。カタツムリのようなモンスター、リカーネだ。俺の腰の高さぐらいまでの大きさである。

「どうする、コキノレミス」

「えっえっ?」

「あのモンスターは動きが遅いから、逃げるのは簡単だ。特にお前の脚なら。ただ、この先のことを考えると、倒せた方がいい」

「うんっ」

 コキノレミスは立ち上がり、ナイフを構えた。ぎこちないが、足はちゃんとモンスターの方を向いている。

「あああああっ」

 気合の声とともに前進。リカーネはびっくりして、少し体を後ろにそらせた。だが、そもそも向こうには逃げ足もない。のそりのりそとコキノレミスに向かっていく。


クツン


 乾いた音が鳴った。ナイフが、リカーネの殻に当たったのだ。

「おい、一番固いところだぞ、そこ」

「えっえっ」

「しょうがねえなあ」

 リカーネの頭が、コキノレミスに襲い掛かる。足が遅い代わりに、柔らかい頭部が意外と早く動いて敵を攻撃するのだ。このままではかみつかれてしまう。助けに行こうと駆け寄った、その時。


スパン


 何の音だ? 綺麗すぎて、よくわからなかった。リカーネの体が縦に割れて、左右に倒れた。

 切断面が真っ平だ。

「騒がしいよ」

 現れたのは、真っ黒な鎧を着た女だった。髪も瞳も黒い。

「わっわっ」

「子供が来るところじゃない。あんたも親ならしっかりしろ」

「親ではないんだが……」

「じゃあなに」

「指導棋士」

「……はあ?」

 これでもか、という冷たい視線だった。

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