振り飛車

11話

「なるほど、そこまでは行ってる、と」

 酒場にて。最近潜っていたという冒険者たちに聞いて回ったところ、コキノレミスの父親らしき人の目撃談があった。そこそこ深いところで、テントを張っていたらしい。単独行動だったとのことだ。

 すげえ強い人なのでは。

 そもそも一人で進むのは大変だが、ほかのダンジョンと違い、ここでは将棋の実力が必要となる。

 コキノレミスも、父親が何のためにダンジョンに行ったのか知らないらしい。普段どんな仕事をしているのかも、詳しくは聞いたことがないという。

 まあ、言えないことなのかなあ。

 ダンジョンには、様々な人がやってくる。お宝を発見したいという好奇心旺盛な人。単純にお金を稼ぎたいという人。地上の仕事を辞めざるを得なかった人。

 家族を捨てた人、死んだことになっている人なんてのも珍しくない。

 果たして、コキノレミスの親はどうだったのか。

 俺は両親を知らない。たまたま将棋が得意だったので、学校に入ることができた。そこで挫折感を味わい、ダンジョンに潜ることになり、深く潜らなくなって今に至る。

 誰も俺を探しに来ることはない。時折いったい何してるんだろう、と思わなくもないが、そうは言っても他に何ができるわけでもない。

 とまあ、考え込んでも仕方がない。そろそろコキノレミスを迎えに行かなければ。

 道場に向かう。足を踏み入れると、何かが変だった。空気が違うというか、音が違うというか。

「もうおしまいなの?」

 後ろの方で、ふんぞり返っている男がいた。ひげで顔の半分が隠れているが、肌つやからしてまだ若そうである。

「なーんだ。ここにはいなかったのか」

 席主が、ちらりと俺を見た。頷いて、男に近づいていく。

「誰かお探しで?」

「強いやつを」

「どれぐらい」

「プロの僕に勝てるぐらい」

 全員の目が、こちらに向いているのが分かった。コキノレミスも、不安そうな表情で、ちらちらと見ている。

「いないんじゃないですかねえ、そんな人」

「フリソスという奴なら、と思って来たのだけれど」

「偶然同じ名前ではありますが」

「じゃあ、記念に一局指そう」

「……わかりました」

 思い出した。学校の、二年先輩だ。ずば抜けて強かったという記憶はないけれど、俺より成績が良かったのは確かである。

 盤の前に、着席する。こういう勝負は、ずいぶんと久しぶりである。



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