2話

「いいか、俺の名前はフリソス。ちゃんとメモしておけ」

「うん、ふりそすっ。ぼくはこきのれみすっ」

「コキノレミス。名前は強そうじゃないか」

 俺とコキノレミスは、テントの中でパンを食べている。ダンジョン内は雨が降ることはないので、休むだけならどこでも腰掛ければいい。ただ、モンスターがやってくると厄介だ。いまだに生態の解明されていないモンスターもいるので、警戒しておくに越したことはない。

「将棋はまったく経験ないのか」

「うんっ」

「それでこのダンジョンに来たのか。無謀だな」

「……うん……」

「ここは将棋系のギミックが多い。だから俺みたいな指導棋士が活躍できる」

「じぶんではもぐらないの?」

「効率が悪い。入り口付近はモンスターも弱いし、このあたりで客商売するのが一番安全で儲かる」

「そうなんだ」

 実際のところは、パーティーを組んで奥まで潜ったこともある。モンスターはもちろん厄介だが、人間関係も大きな敵だった。仲間と違って、客はお金さえくれれば関係は期限付きで切れる。少年にはまだこの話はしなくていいだろう。

「とはいえ、素質がなければどうしようもない。奥に行くほどギミックは難しくなる」

「ふりそすはなんでもとけるのっ?」

「何でもは無理だ。どうやらこのダンジョンを作ったのはめちゃくちゃ将棋が強い『何か』だったみたいでね。誰もまだ開けていない扉がいくつもある」

「そうなんだっ」

「強さと賢さ。どちらもないと進めない。お前の父さんはどうだったかな?」

「とうさんはつよいっ」

「そうか。じゃあ、どこかの扉の前で立ち往生してるかもな。探し出せるといいな」

「うんっ」

 いい笑顔だ。コキノレミスは感情表現が豊かだ。大事なことだと思う。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る