3話

「よし、やってみろ」

「うんっ」

 コキノレミスは扉の前に立ち、少し背伸びをした。俺にとっては胸のあたりの高さだが、小さな液晶画面があり、タッチすると詰将棋が現れるのである。

「誰が解いても開くけど、助言すると開かない。ヒントは言えないからな」

「わかったっ」

 問題が表示され、真剣な目でそれを見つめるコキノレミス。何度か小さくうなずく。

 表示されているのは難しい問題ではないが、だからと言って簡単に解けるわけではない。まず、何手詰めかが示されていない。何手で詰むかは大きなヒントだ。

 ギミックは、不正解だと一時間は再挑戦できない。また、一日経つと問題が変更になる。

「よしっ」

 コキノレミスは、ぺちん、と両手で頬を叩いた。そして、手順を入力していく。


ピコーン


 少々拍子抜けする音とともに、ごごご、と扉が開き始めた。正解したのだ。

「やったな」

「あ、できたっ。できたんだっ」

「一日勉強しただけで三手詰めが解けたぞ。たいしたもんだ」

「ふりそすのおかげっ」

「そうかそうか。まあ、プロの指導棋士だからね。契約した以上は最大限の力を引き出すよ。才能はある方かもしれない。ただ……」

「ただ?」

「お前の父さんも才能あるとすると、探すのが厄介になる。地下深くまで行けちゃえるから」

「そんな……」

「まあ、わからんさ。途中で情報が手に入るかもしれない。前に進むしかないな」

「うんっ」

 素直ないい子だ。まあ、将棋は素直じゃないほうがいいこともあるけれど。

「もう少し先までは安全だし、ついてってやろう。それぐらいの前金は貰ったからな」

「ありがとうっ」

 満面の笑み。そんな顔されたら、ほっとけないよ。


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