神主様!
百 美栞(ひゃく みかん)
序。
「神主(みぬし)様ー、神主様ー!」
「うるさい」
「冷たくしないでください神主様ー!」
「だったらその呼び方やめろ。名前で呼べ」
「でも、」
なんだかうるさいこの女。見た目普通の女子高生だが、実は人間ではない。普通に黒髪ストレートでスタイルも人並み以上、言ってしまえば美少女。そんな見た目なのになぜ人間ではないのか。それは俺の家にも関係していた。
俺の家はただ家が神社というだけではなかった。小さい頃聞かされた話だと、大昔から神様と関係を築いてきた由緒正しい神社なのだとか。だが、親父は他にやりたい事があると家を継ぐ事なく出てしまった。よって祖父、じいさんが未だ現役で宮司をやっている。じいさんやおふくろ達は俺が跡を継ぐと思っているが、そうはいかない。なぜなら俺は、この女・華鈴(かりん)のせいで神社にいるのが嫌になってしまった。
小さい頃から華鈴が俺を神主様と呼ぶせいで、友達が少なかった。おかげで小学校はとても寂しい思いで過ごしてきた。だからというわけではないが、中学は地元から離れた知り合いのいない所に入学した。幸か不幸か華鈴も一緒に入学する事になったが、なんとか名前で呼ぶようにさせ、幼なじみを装い過ごしてきた。するとなんとようやく、ようやく!仲の良い友達を作る事に成功した!
話がそれたが、なぜか家の式たりで高校卒業まで神社から出て生活する事を許されない。俺はそんな窮屈な生活は真っ平御免だし、何より普通の人並みに普通に恋愛して普通に結婚して普通に生活したいのだ。また昔のように1人寂しく生活するのなんて俺は嫌だ。そのためにも、華鈴に神主様になるつもりがない事をわかってもらわなければならない。
「いいか華鈴。俺はお前の神主様になるつもりなんてさらさらない。いい加減諦めてくれ」
「嫌です!わたしは神主様…大樹くんがいいんです。だから、諦めません!」
この通り諦めが悪い。今まで何度となく同じ会話を繰り返してきたが、1度も返事が変わる事は無かった。だが悪いな華鈴。俺も諦める気は全くない。あと少しの辛抱だ。
「なんでそんなに嫌がるんですか?このまま神主様になれば、就活必要ないですよ?」
「悪いがそういう事じゃないんだな」
「じゃあなにがそんなに嫌なんですか?わたしにはわかりませんよ…」
「わからないならわからないでいいんじゃないか?」
「そんなの納得いきません!」
いつもこのように終わりの見えない言い争いになり、どっちも折れないからか中途半端な結果になる。いつかしっかりと話さなければならないとはわかっているが、華鈴が意外と頑固者だった。なんでこんな頑固者に育ったのか。俺には全く理解できなかった。もう少し頭を柔らかくして欲しいものだ。
「跡継ぎだって、なにも俺じゃなくても」
「ダメなんです!大樹くんじゃなきゃ、神主様にはなれないんです……!」
「そりゃまたなんで」
今まで何度もこんなやり取りはしてきた。しかし今の今まで聞かされなかった新たな話が出てきた事により、また中途半端な結果に終わりそうだ。
「もう学校に着くから、その話はまた後でな」
そう言って華鈴から少し離れて歩く。こんな場面、ただのクラスメイトなら見られてもなんとも思わない。けど、あの子にだけは見られたくない。
クラスメイトの進藤愛美。彼女とは小学校から一緒だが、おそらく良くは思われていないだろう。中学進学を機に印象を変えようと努力はしているが、進藤は優しい性格だからか普通に接してくれている。ただ単に気にしていないだけなのか、本当になんとも思っていないのか。はたまた本心では関わりたくないと思われているのか。どうしても不安になるが、進藤がそんな事を思うはずないと前向きに考えている。
「真木くん、おはよう」
「あぁ、おはよう進藤」
いつも会うと挨拶をしてくれるどころか、他愛もない話にも付き合ってくれる。これは悪くは思われてないって事だよな?
「進藤さん、おはようございます!」
「おはよう小鳥遊さん。今日も元気だね」
とても優しい笑顔で華鈴にも挨拶する進藤。よほど心が広いのか。2人はよく一緒にいるが、華鈴は学校では小鳥遊と名乗り、俺の幼なじみと言うようにさせている。俺たちの関係を変に思うクラスメイトはいない事に安心している。
そんな俺の日常が騒がしくも楽しいものに変わるなどとは全く思っていなかったのだが。
まさか華鈴が俺を引っ張る事により、俺の周りはとても賑やかになるとは。
神主様! 百 美栞(ひゃく みかん) @hyakumikan
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