第62話 リリムのキョウ運

「そいやぁぁああああ!!!」

 

 おっさん、ダイスを振るだけで自がでちゃってるんですけど。

 

 めちゃくちゃな勢いで飛んで行ったダイスが壁やら天井やらに跳ね返って、勢いを殺しながらようやく止まった。

 十二面体というだけあって、普通のダイスよりもよく転がる。

 

「あら、天使だわ!

 流石私ねぃ❤︎」

 

 今目に写っている見た目が違うと思うとゾッとする程のセリフだ。

 ゲーム中は青髭を生やしたおっさんであると言う記憶は消しておきたい。

 しかし、


「やるじゃないプリムラ!ナイスよ!!」

 

 天使の目が出たおかげで、もし悪魔が出た時の保険が掛けられたのは大きい。あまり進む事は出来なかったが、後のことを考えると素晴らしい働きをしてくれた。

 

 これで天使を獲得しているのはヌイとマリーヌ組、私とおっさんの組だ。リリムとラックは三マスしか進んでいない上に天使の獲得はゼロ。

 まぁ悪魔が無いだけでも御の字と言ったもころだ。

 

 序盤からマリーヌ達に大きくリードを許した形となってしまってけど、まだまだ始まったばかり。

 ここから追い上げて行ってやるわよ!

 

 心にグッと誓いを立てると、再び控え室へと転送が始まった。

 

「セツナさまお疲れ様です!

 さ、耳を此方へ向けて下さい!!さぁさぁ!!

 早くこっちへ!!ゴブへッ!!?」

 

 荒い吐息を立てながら鼻の下を伸ばして走りこんできたリリムへ、久しぶりのドロップキックがめり込んだ。

  

 流石に顎へ入れるのは可哀想なので、お肉のついた旨のあたりを狙い撃つ。

 

「セツナさんやるねー!」

「お姉さま流石です!」

 

 ヌイとマリーヌは声を揃えて褒めてくれたが、逆に二人の余裕が窺えるようで素直に喜べない。

 一投目で倍以上の距離を離されたのだ、何とか次の一投に期待をしたい。

 

「(お見事でしたセツナさま!)」

 

 さっきまでギャアギャア転げ回っていたラックだが、プリムラのお陰ですっかり元に戻っていた。

 これなら次の順番もなんとかなりそうだ。割とまともな従者なだけあって、なんとか頑張ってほしい所だ。

 

「ありがと。一ターン目はかなり差がついちゃったけど、私は負ける気なんてないからね!

 賞金は私のものよ!!」

  

 

 

 かくして双六ゲームは進んでいく。

 それぞれ見事に悪魔を避けて、天使を増やす。

 リリムとラックはターンを重ねる毎にトップとの距離が開いていき、みるみる遠ざかって行く。

 代わりにマリーヌ&ヌイ組とセツナ&プリムラ組は熾烈なデットヒートを繰り広げた。

 抜いて抜かれて、一回休み。

 ゴールに近づくにつれてだんだんと止まるマスのお題がハードになって行く。

 デーモンやドラゴンとのバトル、かと思えばお料理対決。

 ジャンルを問わないお題が次々と出される中、それぞれが必死なってクリアしていった。

 

 リリムとラックのペアがすごく不安ではあったけど、割となんとか倒せるレベルの魔物しか出てこなかった。

 案外そう言う面では多少の配慮が出来ているのかもしれない。

 

 まもなくゴールも間近と言う所で、そんなことを思っているとリリムが渾身の一投を放った。

 

『アイラブセツナァァァァァア!!!』

 

 画面越しから奇声が上がる。

 若干ヤケクソ気味になっていてテンションがおかしくなっているようだ。

 普段からおかしいのだけど、なんか目がいっちゃっている。

 

 なんだかわからないがリリムが珍しく乗り気で双六をやっている。すでに三十マス近く離れてしまってもはや挽回の余地はほとんどない。

 しかし、それでも勝利を目指して頑張っているようだ。

 賞金がほしい私としてもリリムが頑張ってくれるのは嬉しいが、何やら別の理由がありそうで怖い。

 

『やりましたセツナさま!!【十】ですよ【十】!!』

 

「やるわね!でももう少し早く出てたら良かったのに。早く追いついて来なさいよー!」

 

 画面越しにだが応援する。少しでも賞金獲得の確率を上げておきたいのだ。

 マイクの使い方もしっかり把握したし、此方の声は届いている筈だ。

 その証拠に、リリムは満足気な笑みを浮かべている。

 

 さて、十進むのはいいけど、問題はお題ね。

 何が出るか……。

 

《十マス進む》

 

「おぉ!?」

 

 まさかの進むマスキター!

 

『やった!やりました!!

 もう少しで追いつきますよぉ!!ラック!絶対いい目を出しなさいよー!!』

 

 リリムがラックに向けてめちゃくちゃ凄んでいる。

 ラックのプレッシャーは半端じゃない筈だ。一投目の以来悪魔の目は出していないが、ここで悪魔の目なんか出した日には腐った激辛饅頭じゃあ終わらないだろう。

 

 チームにプレッシャーを与えるのはどうかと思うが、リリムの強運もなかなかのものだ。ラックがここで更に十を出せば、一気に私たちトップグループの優勝争いに食い込んでくる。

 

 これはウカウカしていられないわね。

 

《持っている天使を没収》

 

 十マス進んだリリム達に待っていたのは、せっかく溜め込んだ天使の没収だった。まったく、強運なのか凶運なのか……。

 

『そんなぁ!!!?』

 

 両目を見開きリリムが呆気に取られている。しかし、十マス進んだ代償を考えればそういった事もあるだろう。

 所詮悪魔が出た時の保険である。

 ここで悪魔を引き当てるほど、ラックも引きが弱くはないだろう。

 

 ん?

 

『(…………)』

 

 ラックが無言で震えている?

 

『ラック!あんたが頼りよ!!

 ここで一発逆転のチャンスをものにするのよ!!絶対だからね!!!』

 

 それに気づいた様子もなく、リリムはラックへ気合いを入れるべく檄を飛ばしている。

 

『(………………)』

 

 犬なのにいつも気丈に紳士的に振舞っているラックからは考え付かないほどビクついている。

 ラックもプレッシャーには弱いってことかしら?

 

 最初の激辛饅頭が相当答えたとか?

 まぁ気絶してたし当然と言えば当然だけど。

 大丈夫かしら……。

  

『(代わりにリリム先輩に振ってもらうことは出来ないのでしょうか…………?)』

 

『はぁ?あんたふざけてんの?

 それでもキ◯玉付いとんのか!?

 ここで逃げようもんなら饅頭程度のことで終わると思うなやワンコロがぁ!!』

 

『(やります!自分やります!!)』

 

 ガチガチと音がなりそうなほど口をパクパクさせている。

 というか、リリムはなんでラックに対してあんなに強気なのかしら?従者として先輩ってのは前に聞いたけど、そもそも出会った当初はあんたラックに殺されかけてたからね。

 ラックの方が強かったわよ?

 

 だけど、ラックもラックでビビりすぎよ。リリムの敏感肌とかわけわかんない魔法に怯えすぎ。

 まぁ、わからないでもないけど……。

 

『(いい目がでますようにぃ!!!)』

 

 ラックの必死さがにじみ出るような掛け声とともに、後ろ足でけられたダイスがコロコロと転がる。

 

 ラック、あんたは頑張った。

 たとえ悪魔が出てたとしても、リリムが何をしようとも、私は貴方を労ってあげるわ。

 ……多分。

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勇者に婚約破棄されたので村娘から憧れのテイマーになったけど、テイムって人にも出来たんですね。 三羽 鴉 @mu-min32

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