第61話 秘密を暴露

 マリーヌとヌイの二人組は揃いも揃って十の目を出した。一回目にして二十のマスを突き進む。

 まずマリーヌが振って、ヘルマウンテン討伐と言う内容のマスだった。紫色の気持ち悪い色をした巨大な猿の魔物が現れたが、さすが元勇者のパーティと言うだけのことはあり難なくと言った雰囲気で清々しく倒していた。

 二分で天使獲得ボーナスであったが、物の三十秒とかからなかった。

 

 組み合わせおかしくね?とは思ったけど、すでに後の祭り。

 気を取り直して、悪魔の目を祈っていたのにヌイがまた十を出した。

 

 マスの内容に期待したけど、まさかの何もなし。

 空白マスでプラスもマイナスもない。

 この場合、何事もなく終わった事を考えると最高の引きだったと言えそうな気がする。

 

 それに、私と変態のペアであんな猿が出てきて勝てるのだろうか?

 大賢者って事で一応戦闘面では頼りにしたいのだが、中身が終わっているので現状何とも言い難い。

 

「あんたらふざけんじゃないわよ!

 いきなりぶっちぎりすぎじゃないの!!」

 

 帰ってきたマリーヌとヌイに向けるのは最早文句しかない。

 戦闘もさっさと終わってしまったので、気絶していたラックもまだノックアウト中だ。

 

「リリム、さっさとラック起こしときなさいよ!」

 

 リリムが私にくっついてくるのでラックの解放を言いつけておいたが、このリリムが手を抜いているのかラックが起きない。

 ラックが起きなければゲームに差し支えるし、下手すると死んでしまう。

 賞金のために何が何でも勝ちたい勝負だ。

 くだらない事で争わないでほしい。

  

「仕方ないから、私が直してあげるわよん」

 

 変態、もといおっさんが何を言い始めた。

 

「出来るの?」

 

「もちろんよぅ。私を誰だと思ってんの?」

 

 変態で、おっさんでしょ?

 とは思ったけど、面倒臭くなりそうなのでグッと堪える。さっさとゲームを終わらせたい。

 

「えい♩」

 

 おっさんの手がポッと緑色に光ると、そこから光が広がってラックを覆い尽くした。

 光がラックの周りを蠢くように揺らぎ、数秒後。

 ラックはパッと目を開けた。

 

「(はっ!?匂いが無くなった!!?)」

 

「え?」

 

 起き上がったラックの言葉を聞いて驚いた。あれだけ悶え苦しんでいたのにどうやらすっかり治ったらしい。

 そのままおっさんを見ると、ウインクを投げてきたので咄嗟に躱す。

 

「治ったでしょ?」

 

 幻惑魔法で自分を女性に見せているおっさんは、何処か誇らしげにドヤ顔を浮かべてニヤリと笑った。

 

「さ、流石大賢者……って事かしら」

 

 これがあのおっさんだと思うと腹立たしいが、大事な乗り物であり従順な従者であるラックを治してくれたことは素直に喜ぶべきだ。

 

「ありがと」

 

 癪だが、私はお礼も言えない程恩知らずではない。ここはやはりグッと堪える。


「(助かったぞプリムラ!礼を言う!)」

 

「なんて事ないわよ。それじゃ、ステージに行きましょうか」

 

 ラックはどうやらおっさんの名前を把握している様だ。それに、やはり魔物なだけあって年齢とかは気にしてない。

 従者としての先輩風を吹かせる様な口調。だが、良く出来た犬なのでちゃんとお礼が言える良い子の様だ。

 

 そんなラックを横目に、私とおっさんは双六ステージへと転送された。

  

 

 転送されるなんて始めての体験であったが、よくよく考えればマリーヌのテレポートも似た様なものだ。

 視界が一瞬で切り替わる不思議な感覚。

 

 あっという間にステージに着いた。

 

「おっさんから投げる?」

 

 目の前に現れたダイスを見ておっさんに聞く。別にどちらからでも問題ないが、これと言った拘りもない。

 おっさんの好きに決めさせようと思う。

 

「セツナちゃん。流石におっさんは酷いんじゃないかしら?

 私は艶女、女の子なんだから!あんまり執拗いと怒るわよ!!」


 ものすごい剣幕で怒ってきた。今の見た目は魔法で誤魔化してはいるものの、青髭生やしたおっさんが凄んでいると思うと何とも笑いをこらえるのが大変だ。それに、


「艶女で女の子って……。性別よりも子供か大人かの判断が難しいわよ」

 

「乙女よ!!」

 

「そりゃないっす」

 

 最早棒読みである。しかし、これ以上のやり取りは面倒だ。

 

「まぁプリムラって呼んどいてあげるわ。めんどいし」

 

「プリンちゃんって呼んでくれても良いわよ?」


「却下で」

 

「もう、強情なんだから」

 

 何このやり取り。

 まだゲーム始まらないの?もう良いよね?

 やっちゃっていいよね?

 

「てい!」

 

 いい加減おっさんの問答も嫌気がさしてきたので、断ち切るべくダイスを振った。

 

「あ、私が投げようと思ってたのにー」

 

「さっさと投げないからでしょ」

 

 おっさんからは視線を外し、転がるダイスを見守った。

 出た目は、「八」。

 

「おっ、中々いいじゃない!」

  

「あら、セツナちゃんやるわね」

 

 二人して出た目の大きさに感心していると、画面越しに見ていた通りにフワッと体が浮き上がって八マス分動いた。

 マスに表示される内容をドキドキしながら待っていると、内容が浮かび上がる。

 

『秘密を暴露』

 

「は?」

 

 何のこと?と思った矢先、新たな文字が浮かび上がる。

 

『セツナは耳の裏が弱い。軽く噛み付くと奇声を発する確率97%』

 

「…………」

 

 え?

 誰得?

 そもそも私って耳の裏弱いの?

 

 自分でも知らないんすけど。それに、耳を噛みつかれれば誰だって奇声を発するんじゃね?

 

『セツナさま!!噛んでも、噛んでもいいですかぁ!!!!?』

 

「却下」

 

『あぁ❤︎嫌がるセツナさまも可愛い!!』

 

 あれか、得したのは何故か画面越しに鼻の下を伸ばしているあっちの変態だけね。

 

 こんなマスの内容、いらないでしょ!!

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