第60話 ペア

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 アホだ。

 ラックまでアホっぽく見えてしまうのは全てリリムの所為なんだろうか?一投目のまさかのボーナス獲得にはびっくりしたんだけど、私の驚きを返してほしい……。

 てか、


「くっさいわよ!!しかも激辛の部分が飛んできてる!!!なんかよくわかんないけど飛んできてるわよ!?

 目が痛い!目が痛いから!!臭いし!

 あっちに行ってラック!!!」

 

「(ぐわぁあああああああ!!!せ、セツナさまぁぁ!!?

 助けてくださいぃぃいいい!!!)」

 

「だから!こっち来るなっての!!」

 

 ラックが此方へ移動してくるや否や、執拗く私の周りを付きまとい始めた。腐った激辛の温泉饅頭からなんとも言えない異臭が漂ってくる。付け加えて気発したような激辛成分が目にしみるというおまけ付き。

 

「リリム!!

 こんな凶器をどこに隠し持ってたのよ!!それにコレどうやってくっついてんの!?

 ラックが惨め、じゃなくて悲惨な事になってるわよ!!!」

 

 何故か饅頭はラックの鼻っ柱にくっついて離れない。ラックが掻き毟ると形が崩れるもののくっついたままだ。

 

「ふっふっふ。企業秘密です。」

 

「あんた今無職でしょうが!!」


「あ、いや。奴隷ですよ。

 セツナさま専用の。」

 

「奴隷にしたつもりはないわよ!!」

 

「似たようなものです!」


「違うわよ!!」

 

「(ぎゃあぁぁぁぁあああああ!!!)」

 

 リリムとの問答は無駄な事だとわかっているけど、問いたださずにはいられない……。

 しかし、そんな事をしている間にラックが大変そうだ。普段大人しい子なのに、理性が保てなくなってるんじゃないかしら?

 

「リリム、これ以上やるとラックが使い物にならなくなるわよ?

 あんた一人で勝てると思ってるの?賞金かかってるんだからね!!」

 

「はっ!?そうでした!!

 ご褒美!!」

 

 リリムはハッとして、ラックの鼻から饅頭をもぎ取った。

 が、


「ご褒美?」

 

「え?あ〜……。

 賞金とったら、ご褒美期待してます!!」

 

 何、今の間は?

 ご褒美?メシか?

 まぁそれくらいなら奢ってやらんでもないわね。


「勝ち取れたらね。」

 

 私も美味しいご飯食べたいしね。

 ま、ここのご飯も思ったより美味しいから、また後日だけどね〜。

 

「え?ご褒美あるんですか!!

 うひっ❤︎」

 

「あんた、何か勘違いしてない?」

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。」

 

 あ、聞いてねぇや。

 まぁいっか。賞金貰えたらそれでいいし。リリムが何か勘違いしてても力尽くで正せば何とかなるっしょ。

 

「ラック!!気合い入れなさい!!次は口にも突っ込むわよ!!」


「(…………。)」

 

 ラックは気を失っているようだけど、大丈夫かしら?

 

「さっ!次は私とマリリンの番だね!」

  

 ヌイが立ち上がってマリーヌの手を引っぱった。一瞬何のことかわからなかったが、意味を理解して凍りつくような寒さを感じた。

 

「いや、ちょっと待ってよ。

 どういう事?

 私とマリーヌがペアでしょ?」

 

「へ?でも、組み分けはこうなってるよ?」

 

「いつそんな事決まったのよ!?」

 

「ん〜。最初の組は自由だけど、残りは自動で決まっちゃうからなぁ。

 ほら、あそこの画面に表示されてるでしょ?」

 

 ヌイはおどけたように壁の方を指差した。私が慌てて指のさす方を見ると、そこには確かに文字を映し出した物があった。


《リリム&ラック、マリーヌ&ヌイ、プリムラ&セツナ》

 

 いつの間に……。いや、そんな場合じゃない。

 私がなぜ見ず知らずのおっさん、というか変態とペアなのよ!おかしいでしょ!?

 

「仲良くやりましょうね、セツナちゃん❤︎」

 

「断る!!」

 

「照れなくなって大丈夫よぉ。お姉さんがちゃんとエスコートしてア・ゲ・ル❤︎」

 

 青髭を蓄えた頬に手を当てて、私を見つめてウインクを投げかけてくる変態。

 私は不穏な何かを感じ取って、咄嗟にそれを避けた。

 

「ハートを飛ばすなど変態!!!」

 

「やぁ〜ねぇ。そんなんじゃ、男にモテないわよ?」

 

「うっさい!アンタに言われたくないわよ!!」

 

 何で私がこんな奴と組まなきゃいけないのよ。幾ら勇者パーティの一人とはいえ、こんな奴と組むくらいならリリムの方が……。

 いや、リリムの方がとは思わないな。

 どっちも嫌!!

 

 あっ!!

  

「ちょっと待って、もう二人いるわ!!参加させましょう!!」

 

 私にはテイムした精霊が二匹いる。精霊のレレルとルレル。普段は姿を隠しているが、私の近くに居るとか言っていたはずだ。

 そもそも存在事態を忘れていたけど、こんな時に活用しないでいつ使うのよ!

 

「お姉さん、もう始まっちゃってるから流石に追加の参加は無理だよ。

 プリムラさんと仲良くやってね!」

 

 ヌイは親指を突き立て私には最高の笑顔を送った。


「あ、そう。」

 

「セツナさま、プリムラさんは頼りになりますよ!」

 

 マリーヌが頼りなさそうな顔を作って励ましてくれるが、何の慰めにもならなかった。

 

「そんなに言うなら代ってよ。」

 

「ヌイ、頑張りましょう!!」

「おー!!」

 

 マリーヌとヌイが拳をあげると、二人はスゴロクエリアへと転送されていった。

 

 転送って事も本来なら物凄く驚くんだけど、それ以上の驚きと落胆が上回ってそれどころじゃない。

 

「セツナちゃん、私たちなら優勝間違いなしよぉ!」

 

 あぁ、優勝の報酬は魅力的だけど、出来なかった時の落胆はヤバイわね。

 何で私はこんな場所へ来て精神的な拷問を受けてるのかしら?

 ダメだ、考えたくない……。

 

 食べよう。

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