第59話 つまりは……

「(リリム先輩、前衛は任せてください!)」

 

「任せた!」

 

 ラックが張り切って飛び出したので、私は高みの見物でもしようかな?って普段なら考えるんだけど、セツナさまも見てるし何よりご褒美!

 今日の私はいつもと一味も二味も違いますからね!!・・・・・・あ、っていっても舐めても味は変わりませんよ。セツナさまにしか舐めさせてあげませんけど。

 そんな事より私もやります!


「敏感肌!」

 

 この魔法、魔物相手だと痛覚をコントロールして刺激を倍増してくれることはラックで実験済みです。フルパワーでかけて問題ないでしょう。

 兜を被って若干まともな鎧を纏ったゴブリン。知識の中にはあるけど実際見るのは初めてね。

 

 でも、知識だけだった頃とは違うわよ!

 

「ラック、速攻!!

 チンタラしてるとレッサーゴブリンを召喚してくるわよ!!」

 

「(承知しました!)」

 

 会話と同時と言えるほどの速さでラックが地を蹴って、一瞬にしてゴブリンロードの前に現れた。

 首元に向かってその鋭い牙を突き立てる。が、ゴブリンロードは見事な反応で持っていた剣をその間に構えて牙を防いだ。

 噛み付くこと叶わず、ラックは態勢を切り替えて翼を広げた。そのまま羽ばたきにより上昇しつつ、剣を持つ右手を爪で引き裂いた。

 ゴブリンロードは少しの怯みを見せたが、再び構えてラックの動きに集中している。

 思ったより動きが早い。でも、何とか目で終えている見たいです。

 レベルアップの恩恵は凄いですね。昔の私なら何が起こっているのかなんてまったくわからなかったに違いないです。

 

「ラック!どんどん行きなさい!!

 合図したら急上昇で戦線を離脱して!」

 

「(何をするつもりですか!?)」


「良いから言う通りにする!ラックだけで時間がかかりそうなら、私が攻撃するのよ!!

 文句ある!?」

 

「(ないです!!!)」

 

 後輩の犬っころの癖に、セツナさまが見てる前で目立とうだなんて百年早いのよ。

 私がド派手に決めてやるんだから!

 

 とは言え、無駄なMPを序盤から消費してしまうのも後々を考えると勿体ない。だからなるべく温存するためにもラックには頑張って欲しいけど……。

 一分以内でボーナスかぁ。なるべくプラス要素は書くときしておきたい。

 

「って、何やってるのよラック!!ちまちまとダメージ与えてるだけじゃダメ!

 デカイのやっちゃいなさい!!」

 

「(くっ!コイツ思ったよりも素早いです!!)」

 

 目に捉えるのがやっとのラックの動きを、ゴブリンロードはことごとくいなしている。まさかここまで強いのが出てくるなんて……。

 まだ序盤なんですけど?

 出し惜しみしてる場合じゃないかもしれないわね。


 と、ゴブリンロードの大振りの一撃をラックが躱し、ここぞとばかりに吠え猛る。

 

『グルガァァアアアアア!!!!』

 

 ラックの咆哮があたりを包み込み凄まじい衝撃波を生んだ。途端、ゴブリンロードの四方に巨大な竜巻が出現した。

 それはゴブリンロード目掛けて突風を巻き起こしながら、急速に移動を開始する。そしてバチバチと音を立てながら閃光が飛び始めた。

 

 ゴブリンロードは逃げ場を探すが、既に退路は断たれている。竜巻は躊躇なくゴブリンロードに襲いかかっていった。

 

 四つの竜巻が重なり合い、轟音と視界を埋め尽くす程の凄まじ閃光が放たれた。目の前に雷が落ちた様な衝撃。

 鼓膜から全身を震わせられ、私は咄嗟に耳をふさいだ。

  

「きゃあ!!!?」

 

 光によって眩んだめを薄っすらと開きフィールドを窺う。

 

《ドサッ》

 

 竜巻によって巻き上げられたゴブリンロードがその場所に落下した。全身は電撃によってことごとく焼かれ、幾重にも折り重なった身を切る程の突風によってボロボロになっている。

 もはやピクリとも動く事はなかった。

 

『YOU WIN!!

 所要時間、五十二秒。

 ステージクリア。天使ボーナス獲得。』

 

 再び目の前に現れたウインドウによって、戦いの終わりが告げられた。

 

 いやー、ラック強いわ。お陰でMP温存できた。しかもボーナスゲット!!

 天使の恩恵がどんなものかよくわかってないけど、やりました!!これで一歩優勝に近づきましたよ!!

 

「ナイスラック!!」

 

「(いえ、リリム先輩の補助魔法のおかげです!)」

 

「ま、それ程でもあるけど。

 なんにしても幸先のいいスタートね!

 セツナさま〜!見てますか〜?

 やりました!私たちやりましたよー!!」

 

 勝利の感動に浸っていると、フッと景色が暗転して元のスゴロクエリアに戻った。

 一体どういう仕掛けなんでしょう?

 

『続けて二人目がサイを振ってください。』

 

 間髪を入れずに二人目ですか。なかなかハードですね。

 でも、ご褒美の為にもやるしかないのよね!

 

「ラック!いい目を頼むわよ!!」

 

「(任せてください!!)」

 

 ラックが後ろを向いて、馬の如く後ろ足でサイコロを強く蹴りつけた。サイコロは宙を待って転がっていき、遠くの方で何かの目を引き当てた。

 

「蹴り過ぎよ!見えないじゃないの!!」


「(す、すいません。張り切り過ぎました。……。)」


 もぅ!何の目が出そうかとか、目で見えなきゃ楽しさも半減じゃない!

 これだから犬っころはわかってないわねぇ!

 

『天使によって悪魔を相殺しました。』

 

「へ?」

 

 突如現れたウインドウの画面に、意味のわからない単語が並べられた。


「ち、ちょっと待ってよ!!……まさか!?」

 

 サイコロへと駆け寄ると、ニヤリと笑った悪魔の姿が天を仰いでいた。

 つまりはこういう事、幸先の良いスタートで獲得した天使ボーナスというアドバンテージ。

 これを二手めで失った。という事。

 

 纏めると、二回振って三マス進んだだけ……。

 

「おい犬。覚悟、出来てんだろうな?」

 

「(ひぃっ!?)」

 

『ターン終了。自動的にレストルームへと移動します。』

 

 表示された言葉の通り、私トラックはみんなの居る休憩所へと移動したがそんな事は関係ない。

 

「お仕置きの敏感肌!!

 からの腐った温泉饅頭!!!」

 

「(くっさぁぁぁああああああ!!!?

 しかも鼻の奥がピリピリしびれます!!やめ、やめて下さいぃいい!!!!!!)」

 

 しばらく、ラックには己のミスを悔いてもらう事にします。私はセツナさまと楽しくお食事と行きましょうかね!!

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