第57話 リリムの第一番投

 私が苛立ち紛れで食事を頬張ると、ヌイがパーティーと称したスゴロクのルールを説明し始めた。

 

「ルールはいたって簡単だよ。サイコロを振って出た数だけマスを進んで、より少ない回数でゴールしたチームの勝ち!

 一回振ったらここの部屋へ戻ってきて休憩できるんだ〜。

 全部で3チームだから、少なくとも十分くらいは休憩できるよー!

 あ、そういえばお姉さん名前教えてよ、私はヌイね!よろしくぅ!!」

 

 ヌイはそう言って片目の前でピースを作りウインクする。なんて馴れ馴れしいのかしら。

 って、勝手にご飯食べ始めた私が言える立場じゃないんだけどね。

 うん、美味しいわ。

 

「私はセツナよ。で、私はスゴロクなんてやりたくないんだけど。その辺はどう考えてんの?」

 

「なっ!!スゴロクをやりたくない!?

 そんなこと言う人がこの世にいるなんて信じられないんですけどぉ!!」

 

 お前に言ってねぇよオッサン。


「セツナだね、覚えたよ。たぶん。

 スゴロクの勝者には私の懐から一千万ほど贈呈するけど、やらない?」

「よしやろう!」

 

「お姉さま、現金すぎます……。」

 

「いや、一千万はやるでしょ?」

 

 何この子、一千万ってやば過ぎでしょ。高難度クエストより遥かに破格な条件。サイコロ振って遊んで勝てたら賞金?

 六人の内五人が私の従者なんだから、いわば私の総取りって事じゃない?なんてことかしら、こんなところでまさかの儲け話が転がってくるなんて。私に追い風が吹いているとしか思えないわ。

 

「セツナさんノリがいいね!よーし、じゃあさっそく始めよう!!

 そっちの二人も準備いいかなぁ?」

 

「いや、聞こえるの?」

 

 立体映画とやらに向かって声を上げるヌイ。まさか此方の声まで届くと言うのか?

 

 …………。

 

 ん?反応がないわね。

 

「あ、マイクのスイッチ入れてなかった。」

 

「おきまりか!!」

 

「気を取り直して、ポチッとな!

 二人とも準備オッケーかな〜?」

 

『おぉ!ラック、ホントに声が聞こえたわよ。

 準備できてますよー!!お〜い!セツナさま〜!!

 私を見ていてください!わ・た・し、を見ていてくださいねぇー!!!』

 

 映像のリリムがやけに拡大されて映し出されて手を振っている。あの組み合わせはラックが可哀想ではあるが、意思伝達は使ってあるから手にリリムを使ってくれることを祈っている。

 

「うん?そういえば。

 なんで意思伝達を使っているのに、二人とも私に気付かれずにいなくなったのかしら?」


 普通予期せぬ出来事なら何かしらの思念を飛ばさしてくるはず。あ、リリムには一方通行で使ってるから無理か。

 しかしラックなら私に何か言いそうなモノだけど……。

 

「マリーヌちゃん。ちょっとおいで。」

 

 ニッコリと笑顔でマリーヌを手招きすると、マリーヌはビクッとなって視線を泳がせ始めた。

 

「な、なんでしょうかお姉さま。」

 

 この子ったらわかりやすいわねぇ。

 

「何か隠してることあるわよね。お姉さんに言ってごらん?」

 

「えっとぉ、何のことですかね?」


「ん?」

  

 徐に手に持った食べ物を置いて立ち上がる。より一層の笑顔を作ってマリーヌに一歩近寄ると、慌て始めたマリーヌの顔が崩れて喋り始めた。

 

「二人を買収して口止めしてましたぁ!!ごめんなさい!粛正はやめて下さい!!」

 

 マリーヌは土下座の姿勢で目の前に飛び込んできて、ペコペコと頭を下げた。

 それはもうキレッキレの土下座だ。そんなに私に隠してまでスゴロクがしたかったのだろうか?

 

「あんたねぇ、そこまでしなくたって私にちゃんと話をすればよかったじゃない。」

 

「お姉さまは断るかと思ってまして……。

 一緒にやりたかったんですよ!スゴロク!!」

 

 少し涙ぐんで此方を見上げてくるけど、私はそこまで涙に弱くはないわよ?

 でも一攫千金を狙えるんなら、今回は許そうじゃないの。

 

「賞金は、私が貰うわよ!」

「勿論です!でも温泉くらいは連れてって下さいね!!」

 

 マリーヌに手を差し出して固い握手を結ぶ。金の為なら、その程度の事は笑って流せるくらいの器は持っているつもりだ。

 

 それに、マリーヌの普段の頑張りはリリムとは比べ物にならない。これくらいのワガママなら認めようじゃないの。

 それに所詮はスゴロクだしね。サイコロ転がして進むだけなんて楽勝楽勝。

 運は私にきてるんだから余裕だわ。

 

「ラック!リリム!やるからには私は負けないわよ!」

  

 立体映画に向かって勝利を宣言する。誰が勝ってもほぼ私にお金が入ってくるはずだが、やるからには負けるつもりはない。

 勝負で価値を譲るなんて、大人気ない私には出来ませんから!

 

「セツナさん、マイク、ボタン押してから喋ってね。」

 

 …………。

 

「いやだわぁ。セツナちゃんたら恥ずかしい子ねぇ。」

 

「お前に言われたくないわ!」

 

 おっさんに言われるのが一番腹立つ。恥ずかしい物の代名詞になりそうな存在でよくそんな事が言えるな。

  

 それになんでマイクのスイッチ切ってんのよ。今しがたヌイも間違えてたじゃない。

 おんなじ事さすなよ!

 

「よし、じゃあスゴロク始め〜!」

 

 ヌイの発生を合図にして、賞金一千万を賭けたスゴロク大会が幕を開けた。

 リリムが大きなサイコロを手に持っている。


『行きますよ〜!それ!!』

 

 放り投げたサイコロはコロコロと転がっていくが、なんだか形がおかしい。

 

「ねぇ、あのサイコロって……?」

「あれは十二面体のサイコロだよ!一から十の数字と、悪魔と天使の目があるんだ。」

 

 十二面体って、めちゃくちゃ多いわね。それに悪魔と天使の目ってどういう事?

 私が疑問を抱えると、初投のサイコロが止まる。

 

 出た目は、『3』。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る