第55話 期待を裏切る勇者の仲間達

 いや〜、流石に馬鹿みたいにはしゃぎ過ぎたわ。泳ぐのに夢中で、気づいたら沖に流されてるなんて思わなかった。

 マリーヌが心配してすぐに探しにきてくれたから無事に帰ってこれたけど、私がちゃんとしてないと主人としての面目がないわね。

 私、反省……。

 

「反省おわり!そんな事よりお待ちかねの晩御飯よ!!」

 

「そうですね。日も暮れ始めましたし、そろそろヌイの館へ向かいましょう。少し遅くなりすぎました。」

 

 体を流して服を着替え、私達はマリーヌに任せてパーティーを開くと言われたヌイの館へ向かう。


「ヌイちゃんも久しぶりだし、楽しみだわぁ。」

 

 ちなみにこのオッサンも付いてくるらしい。

 招待状には『パーティーするから来い!』とだけ書かれていた。場所、時間、人数を含めて必要な情報はゼロに等しい。

 マリーヌは行ってみれば大丈夫ですよ。とは言っていたが、本当に大丈夫なのかは実際のところは不安だ。

 

 しかし、美味しい料理が食べられるのなら例え空振りであろうと行くべきだ。

 いや、空振りだったら、その時は怒ろうと思う。マリーヌの奢りでご飯でも食べさせてもらうとしよう。

 

「テレポート!」

 

 最近リリムに感化されて来たのか知らないが、マリーヌは腕と人差し指を伸ばして無意味なポーズで魔法を唱える。

 知ってるのよ?念じるだけで発動は出来るってことは……。

 

 あまり調子に乗りすぎて、第二のリリムが誕生しない様に教育をしていこうと思う。

 

 マリーヌの魔法で移動すると、目の前に大きな館が現れた。

 

「デカイ……。」

  

 縦に二十メートルはあろう大きな館。敷地も広く大貴族でも住んでいるかの様な風貌だ。

 しかし、館に明かりが灯っていない。

 

「ねぇ、もしかして留守なんじゃない?」

 

 マリーヌを見て首をかしげる。やはり招待状が届いたとは言え、時間の指定もない状態でアポを取らなかったのは失敗だったのではなかろうか?

 

「そんなはずはありません。現に招待状には来いと書かれているのですから。」

 

 その招待状が当てにならないから言っているんだけど、マリーヌは大丈夫かしら?

 

「試しに入ってみましょう。」

 

 マリーヌは何を思ったのか、館の入り口を素通りし、その横に置いてあった石灯籠にノックし始めた。

 

「ヌイいるー?」

 

「いやそこは違うだろぉおお!!!?」

 

 何なのコイツ、リリム化が進行してるの!?

 

「はいはーい。」

 

「何で返事が返ってくんのよぉおおおお!!!!!?」

 

 助けて、無駄なツッコミは遊び疲れた身体に響くよ……。

 

 てか何処から返事が返って来たの?全てにおいて訳がわからないわ。

 そして、なぜリリムとおっさんは無反応なの?私だけ一人で叫んでなんかちょっと恥ずかしいわよ。

 

 さらにいえばラック、あいつは何処言ったのよ!?いつの間にか居なくなってるじゃないの!

 

「招待状が来たんで遥々やって来ましたよー、開けてくださーい。」

 

 マリーヌも当たり前のように石灯籠に向かって喋っている。何でだろう、凄く孤独を感じる。

 私がおかしいのかしら?

 

「は〜い。今扉をあけるね〜。」

 

 ヌイとか言う相手も何処か適当な感じがにじみ出ている。この分だと、まともな奴ではなさそうね。

 ま、手紙の一文を見ただけで想像はついていたんだけどね……。

 

 しかし、最近は私の期待を悪い方に外してくる事ばかり起こっている。もしかすると、まともでない事を期待すればその逆となる可能性も。

 

「いらっしゃ〜い!」

 

 なかったぁぁあああああ!!!

 何で扉を開けるって言って地面がめくれ上がってんのよ!?

 普通この場合館の扉が開くでしょ!?

 何なの!コイツも絶対頭おかしいやつでしょ!?

 

「お姉さま、どうしました?」

 

「何で地面が開くのよ!?館は?目の前館!!」

 

 私が指差すと、マリーヌが苦笑いを浮かべる。


「よく見てください。その館、ハリボテです。」

「へ?」

 

 まさかと思って館の横に回ってみると、とてつもなく大きな板がいくつも貼り付けられているのが見て取れた。

 

 なんともくだらない。

 そりゃあ館の明かりが灯ってる訳ないわ。色々な感情が駆け巡ったが、呆れたところで落ち着いた。正面から見るとなんとも精巧に描かれただまし絵の様な見た目。

 地面から現れた少女はヌイ本人なんだろうが、頭にウサギ耳のカチューシャを付けている。

 どう見てもマリーヌより幼い子供だ。

 こんなよくわからない奴が本当に剣で勇者を凌ぐほどの戦士なのだろうか……。

 勇者ハイゼルあのクソ野郎は一体何を考えてこんな破茶滅茶な奴らをパーティとして認めたのだろうか。

 

 そして、私はどんな未来へ向かって突き進んでいると言うのだろう。

 

 ちょっと、こいつらのリーダーである勇者に復讐するのも馬鹿らしく思えて来そうだ。

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