第54話 オネェ降臨

 青い空、流れる白い雲。

 そして広がる、透き通るような蒼さの海。

 

「ひゃっほー!!」

 

 私たちはスクアローズを見事に脱出し、コロン島なる南の島でバカンスを楽しんでいる。ヤベーやつをテイムしたりもしたが、ここまでくればなんてことは無い。

 私たちはビーチで南国を満喫中だ。

 

「お姉さま、いきますよー!」

 

 水着に着替えて現在三人でビーチボールを飛ばして遊んでいる。ラックは少し暑そうに木陰で丸くなっているところだ。

 

「っしゃこい!」

  

 マリーヌが飛び上がってスマッシュ!

 私は右手を伸ばして飛び込みかろうじて拾い上げる。

 

「セツナさま過激ぃー!!」

 

 そしてリリムが意味もなく鼻血を吹く。

 全くラリーが続かない。

 

「あんた!しっかり拾いなさいよ!!

 エンジョイしなきゃ!せっかくだからエンジョイしなきゃ損よ!?」

「エンジョイ通り越してハッスルしてます。」

 

 全く、楽しもうって気概がたりないわね。これじゃぁ消化不良だわ。

  

「お姉さま、せっかくだからスイタ割りでもしましょう!」

「任せとけこんちくしょー!」

 

 もうマリーヌと遊ぼう。

 リリムはほっといても人形遊びしてるでしょうし。

 スイタとは丸い大きめの果実だ。緑の皮の中に赤くて甘意実が付いている。目隠しをして棒切れを持ち、一刀両断振りかざして割るのがスイタ割り。

 

 棒切れを持ってクルクルと10回その場で回る。


「右です右!あ、もう少し左!

 そのまま五歩前に!少し右!そこ!!」

 

 マリーヌの指示に従って棒切れを振り下ろす。


「あん❤︎」

「あ?」

 

 目隠しを取ってみると、お尻を構えたリリムがそこにいた。

 

「セツナ様、激しすぎますぅ。お尻が割れちゃいました。」

「死ね!」

 

 お前は人形遊びでもしてろ!!

 何が嬉しくて女のケツを殴らなにゃいかんのだ。

 っと、なんだかんだでワイワイと楽しく遊んでいる。だが、楽しいひと時ほど終わりは呆気なくやってくるものだ。


「ちゃ〜お〜!」

 

 突如とさておっさんの細い声が聞こえた。振り返るとそこにあのヤベーやつが立っていた。今世紀最大の変質者、プリムラ・スレイニーベルである。

 

「何しに現れやがった!!」

「プリムラさん!?」


「何よ二人とも、つれないわねぇ。

 置いていっちゃやぁ〜よ。」

 

 気持ち悪ぅうう!!

 なんでオカマキャラなのよ!?

 

「あ、私はオカマじゃないわよ?オネェだから、その辺間違えないでね?❤︎」

 

 青髭の残った顔で爽やかなウインクを飛ばしてくるプリムラ。

 名前と大賢者って印象から、大人の雰囲気漂うお姉さんなイメージがあったが脱線しすぎだ。

  

「あんた、よくあの面食い勇者が仲間に入れてたわね。」

 

「そりゃあ私は大賢者だからね!

 男を魅了するのなんて、朝飯前よ❤︎」

 

 いや、それはどうなんだろうか?流石にこんなおっさんに魅了される奴は、勇者の様にあれだけの女を従えてはいないと思うわよ?

 

「無理があるわよ……まさか、変な魔法使ったりしてたんじゃないの?」


 例えばリリムみたいな。やばさの方向性は違うが、ある種同類の雰囲気がする。

 

「流石、私を従えたセツナちゃんね。

 私は男に幻惑を見せる魔法を常に纏っているわ!」

「幻惑魔法?」

 

 やけにあっさりと教えてくれるわね。


「出血大サービスで、見せてア・ゲ・ル❤︎」

 

 キモ!

 

 そう言うと、プリムラの姿が次第に歪み始める。そして別の人間がその場に形作られた。

 ロールがかった紫色の長い髪、小さな整った顔。年齢は30台前半ほどで、大人の女性特有の美しさと怪しさが同居した出で立ち。

 

「どぉ〜お?」

 

 うん、これなら間違いなく男をは落とせそうだわ。

 

「なんか、納得した。」

 

 しかし、知っていれば中身はあのヤベー親父なのよね?あまりにリアルすぎてわからなくなっちゃうけど、間違えちゃいけないわね。

 というか、


「あんた、一緒に付いてくるならそのまま幻惑魔法かけてなさいよ。その方が歩きやすいわ。」

「えぇ〜、女を落としたって意味がないのにぃ〜。」

 

「いいからやれ!」

「わかったわよぉ〜。」

 

 変な親父が付いて回るより、この方が行動はしやすい。


「なるほど、勇者のプリムラさんへ対応する時の違和感がよく分かりました。」


 マリーヌが腕を組んで頷く。


「マリーヌは知らなかったの?」

「はい、と言うか。誰も知らないんじゃないですかね?」

 

「そうね、パーティで知ってる子はいないわよぉ?」

 

 でも、男と女を区別した意味あるのかしら?オネェと言う種族のポリシーとかプライド的な何かがあるのか?

 

「もう!早く打ってくださいよぉ!!」

 

 身体を砂に埋めて、スイタの横に尻を出していたリリムが這い出てきたが、とりあえず無視だ。

 

「あれ?誰ですかそのお姉さんは?」

 

 説明するの面倒くさい。


「マリーヌ、あとで説明よろしく。」

「は、はい……。」

 

 とにかく、私の仲間に新たな変態が強制的に加わった。

 しかし、私はこの海で飽きるまで遊び尽くすのだ。その邪魔だけはさせてなるものか。


「えぇい、とこと遊んでやる!あんた達、倒れるまで遊び尽くすわよ!!」

「「おぉ〜!!」」

「若いっていいわね。」

 

 それから変態を一人加えて、私達は夕方近くまで遊び呆けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る