第52話 招待状

「セツナパーンチ!」

 

 マリーヌとセツナ人形が思った以上の活躍を見せ、私たちは無傷で帰路に着いた。

 

「それにしても凄かったですね。セツナ人形。」

 

 マリーヌがリリムの手にした人形を見つめながら感嘆の声をあげる。私もあの強さには驚いたが、どう言う仕組みで動いているのだろうか?

 

「その人形って、何でそんなに強かったわけ?」

 

「それはですね・・・」

 

 リリムは『ふふふ』と笑ってセツナ人形を両手で掲げる。


「私の愛の力です!」


 咄嗟に私の右手がツッコミを入れる。


「あん❤︎」


 聞いた私が馬鹿だった。もう無視してギルドへ行こう。早く報酬を貰って、食事をとって寝たい。

 待ちぼうけってのも案外疲れるのね。

 

 それからギルドを経由して、食事をとった。

 

「さて、帰って寝ますか!」

 

「えっ!?」

「え?」

 

 マリーヌが驚愕の眼差しを向ける。なんかあったかしら?

 

「お、お・・・・。」

 

「お?」

 

「温泉は!?」

 

 そう言えばそんな約束してたわね。完全に忘れてたわ。

 温泉をダシに一日中こき使ったから行かないわけにもいかないわね。

 

「もちろん寄ってから帰るわよ。」

「よかったぁ。忘れたかと思いましたよ。」

 

 忘れてたけどね!

 

「でも、変なことしないでよ?特にそこの変態!」

 

 何で人形にキスしてんだ?どんだけだこいつ。

 

「なっ!私は何もしませんよ!!」

 

 今まで散々やらかしてくれたじゃない。しかし、今の私にはパワーアップした粛正がある。何かやらかしたら問答無用で使ってやるからな?

 

 それから温泉に浸かったが、割とリリムがおとなしかったのでゆっくり浸かることができた。

 ただ、何故温泉の中までその人形を持って入るんだ?

 痛んでダメになるぞと諭してみたが「水耐性魔法を付与しましたから!」と聞く耳を持たなかった。

 たしかにお湯に浸けても殆ど濡れていなかったが、それって耐性というか撥水加工なんじゃ?

 人形の為とは言えある程度有用な魔法を覚えてくれるのであればそれはそれか。

 

「お姉さま、明日行きたいところがあるんですが。」

 

 突然マリーヌが言った。


「どこへ?」

  

「南の島へ、です。」

 

 急な話ね、私は早いこと勇者をとっちめてやりたいんだけど。何か用事があるのかしら?

 

「何かあるの?」

 

「海に、入りたいです!」

 

「・・・・・・」

 

 遊びか、ここんとこあんまりそうゆう事をしてなかったし、たまには息抜きもいいかもね。

 でも、出来れば効率よくいきたいわ。

  

「じゃあ、その前に栄えてる街のギルドに案内してくれないかしら?」

 

「ギルドが賑やかな街といえば、スクアローズとかですかね?何があるんです?」

 

「ちょっとね。」

 

 私が楽をするために、やっておきたい事があるのよね。まぁ上手くいくかはわからないけど。

 

 ゆっくりと温泉に浸かった後は、マリーヌの屋敷に戻って就寝した。ラックは温泉に行けなかったので、とりあえずお肉を買っておいて機嫌をとった。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ここですか?ここがいいんですねセツナ様!!」

『ヤ、ヤメテリリム。』

「うひょひょー!!」

『ヤーン』


 

「『ヤーン』じゃねぇわボケェェ!!!!何か声が聞こえると思ったら、人形で遊んでんじゃないわよ!!」

《スパーン!》

「あん❤︎」

 

 ボソボソと二階から喋り声が聞こえたから確認にきたら、リリムが私の人形を弄って息を荒げていた。

 しかも人形から私に似た声が出ている。また勝手にくだらない魔法を覚えていたようだ。

 

「何するんですかセツナ様!ヤキモチですか!?どうせブツなら張り手でお尻をお願いします!!」

 

「黙れ変態!粛正使うぞ?フルパワーで使うぞ?」

 

 なんならレベルMAXまであげて使ってやろうか?

  

「それは嫌です!今日は疲れたんで寝ます!!おやすみなさい!!!」

 

 布団をバサッと被り、リリムは寝た。

 あ、マジでもう寝やがった。

 そんな才能あったなら黙って寝ろよ。

 

「ったくもう・・・。」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

  

 

 

「おはようございます。昨日の夜、何かありました?」

 

 マリーヌが起きて二階から降りてきた。昨日はマリーヌとリリムは別々の部屋で寝た。どうやらリリムと寝るのが怖かったらしく、日中はベットを新調して配置するよう業者に依頼していた様だった。

 

「あの馬鹿が人形遊びしてたから、ちょっと脅してやっただけよ。」

 

「そうですか・・・。」

 

 思い出しても気持ち悪いだけなので、一旦忘れることにする。

 とりあえず、今日は私の大事な用事を済ませて南の島へ行くのだ。

 

「でも、急に海に行きたいだなんて何かあったの?」

 

「実はですね、招待状が届いたんです。」

 

「招待状?」

 

 マリーヌは一枚の手紙を持ってきた。


『我らが英雄マリーヌさま

 

 パーティーするから来い!』

 

 何この手紙、書き出しと文書が全く合わないんだけど。差出人は、ヌルとだけ書いてある。場所も日時も書いてけど・・・。

 

「すごい内容だけど、ヌルって誰?」

 

「魔王討伐パーティのメンバーで、私と同い年の女の子です。戦士の子なんですが、勇者よりも剣は強かったんですよね。」

 

 勇者よりも強い戦士か、しかしこの文書からして相当大雑把、しかも頭が悪そうだな。

 マリーヌ同様にテイムできればかなりの戦力になりそうね。

 こりゃあ、行かないわけにはいかないっしょ!

 

「でも、場所はわかるの?」


「多分彼女の所有するコロン島でしょうね。」

 

 何となくで伝わるのか、よっぽど仲がいいのかしら?大賢者のプリムラとは仲がは良くないようだったけど、パーティ事情が少しずつ明らかになっていくわね。

 

 かくして、リリムの目覚めを待ってから、私たちは出かけるのだった。

 まずは私の用事をちゃちゃっと終わらせてから、南の島だ。

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