第50話 オートプレイ

 勇者パーティーの大賢者!?

 まさかのワードが飛び出した。


「大賢者がこんな依頼するって、一体何事なのかしら?」

 

 良く良く考えてみれば、勇者のパーティーにいるような人物なら自分の力で達成出来るような気もする。わざわざお金を支払ってまでギルドに依頼するのだろうか?

 

「さぁ、プリムラさんは少し変わった方だったので、大方何かの用事があって手が離せないとかじゃないでしょうか?」

 

 そっか、そう言う理由もあるわけか。お金持ってれば人任せでもいいのよね。

 

「なるほどね。そんなに多忙な人なの?」

 

「確か、王都でスナックを経営してたはずですが、私は行くことはなかったのでよく知りません。」

 

 何その賢者、スナック経営してる賢者なんて全く想像つかないんだけど?


「うん、意味がわからない。」

 

 いや、ホントまじで。

 でもクエストの報酬はどれも高額なのよね。クエストは受けるとして、どうせなら本人にも会ってみたいわね。

 それに、もし上手くテイムが出来れば戦力の増強にもなる。レベルを上げてお金も溜まって、さらには戦力の特大アップが期待できるなんて、これぞ渡に船ってやつ?

 

「たしかに不思議な方ですよ。私もあまり関わり合いになりたくなかったので、そこまで親しいわけでも無いですしね。」

 

 マリーヌはそう言いながら、明後日の方を向いている。相当変わり者だったのだろうか?

 同じパーティで親しく無いって、勇者のパーティ事情が気になってくるけど、気にしたら負けよね。あの勇者に負けるなんてあってはならないんだから。

 

「どんな人なのかはきになるけど、とりあえず今はクエストね。

 せっかくだし、受けられるだけ受けときましょう。」

 

 マリーヌに敵の強さを確認しながらクエストの受注を行った。受付嬢はクエストの受注数と難度の高さに少し心配していたが、マリーヌがいたおかげで無事に受注は完了した。

 

「さて、魔物退治に行くわよ!」

 

 とりあえず、リリムのいない今のうちにやれる事をやっておきたい。私とマリーヌとラック、実際はこのパーティで十分だと思うのよね。

 賢者としてしっかり役割を果たしてくれるのなら、これほどになく頼りになるはずなのに・・・。

 まぁ無い物ねだりをしても仕方がない。兎に角、クエスト達成に向けて動く。

 

 まずはラメリア山道でドレイクの討伐。マリーヌの魔法で余裕。

 次にサザナギ平原のサイクロプスの討伐。マリーヌの魔法で余裕。

 テルマレネスの森にある沼ではどでかい蛇が待っていたが、マリーヌの魔法で余裕。

 テレポートと各種の魔法で次々にクエストをこなしていく。

 私はそれをラックと眺める。

 

 パーティって言うか、完全にソロプレイなんですけど・・・。

 ま、いっか!

 

「(セツナ様、手持ち無沙汰です。)」

 

 ラックが尻尾を垂らしながら意思を伝えてくる。


「(奇遇ね、私も退屈してきたとこなのよ。)」

 

 マリーヌにバレない様に意思での会話で時間を潰す。

 

「(これって、ラックにも経験値入ってるの?)」

  

「(はい、すでにレベルが5も上がっております。)」

 

 凄い。オートプレイの最前線よね。勝手に倒してくれるし、クエスト達成に必要な部位も取ってくれる。その後はまた次の目的地へテレポート。

 そして狩ってはテレポート。

 

 少し疲れが見えてきたところで、体力回復アイテムを渡して一言囁く。

 

「今日は、温泉に行きましょうね。」

 

「はいーーーー!!」

 

 元気になってまた狩をする。

 気づけば既に10以上のクエストをこなしていた。持ってきた依頼書の写しも後2枚しか無い。

 まさか半日足らずでここまでこなせてしまうなんて。マリーヌの実力は驚異的だ。

  

「一旦街に戻って休憩する?」

 

 そろそろラックとの世間話やリリムへの愚痴も飽きてきたので、マリーヌの体力も考えて提案した。


「そうですね、一息つきたいです。」

 

 マリーヌの答えに一度街へと帰った。向かったのはカフェ。

 疲れた体には甘いお菓子が最高だ。お金もあるから遠慮なんていらない。

 

「今日は私が奢るから、好きなものを頼んでね。」

 

「ありがとうございます!」

 

 カフェのテラスに2人と一匹でくつろぐ。奢りとは言ったが今回のクエストで得られる報酬は全てマリーヌの手柄だ。

 それを折半する予定だから全く痛手はない。

 

「そういえば、そろそろリリムさんが用事を終えてやってきそうな気がします。」

 

 カップケーキを頬張りながらマリーヌが言った。

 

「忘れてた。」

 

 リリムの事をまたも忘れていた。いなくても何も問題ないどころか、全てが上手くいくせいで存在を忘れてしまう。

 あいつは急にやってくるから用心しておかないと。しかも全くいらない何かを持ってくる気がする。

 問題を起こしたり、無駄としか言えない魔法を習得したり。私に迷惑をかけることしか考えてないんじゃないかと思う。

 

「せーつーなーさーまー!!!」

 

 やっぱりフラグが立った様だ。こう言う話はするもんじゃない。

 声のする方を嫌々振り返ると、リリムが走ってやってくる。

 右手に何か持っているが、人形だろうか?遠くてよくわからない。

 

「あいつは何しに何処へ行ってたのよ・・・」

  

「それはですねぇ。人形を作りに行かれました。」

 

「はぁ?」

 

 なんで人形?夜寝れそうだとか何とか言っていた気はするけど、寂しいから人形を作って貰ったって言うの?

 子供か・・・。

 

「みてくださいセツナ様!」

 

 駆けつけたリリムはその手に持った人形を見せつけてきた。栗色のショートヘアに、オレンジ色の冒険者っぽい服装。

 どこか私に似ている気がする・・・。

 

「まさか・・・。」

「セツナ人形です!これで夜も眠れそうですよ!!」

 

 アホなのか、こいつは?

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