第46話 まさしく三重苦
「お肉美味しいぃ〜❤︎」
丸ごと焼き上げた様な骨つき肉を豪快に頬張って、私はその美味に舌鼓を打っていた。脂って、旨味よね。
それにこのソース。少し塩気が効いているにも関わらず、次々と頬張れるさっぱり感。パーフェクト!!
肉と酒って豪快な看板に少し不信感を持ってたけど、入って正解だった。まぁ多少のゴタゴタがあったけど、結果的に従者は増えたし。あのチャラ男が奢ってくれるし。
みんなちゃんということ聞いてくれるから、もう文句なし!
魔人王って職業名には少し引いたけど、やっぱ天職なだけあるわ。なんとかうまくやって行けそうな気がする。
残るはリリムとマリーヌね。あいつらの事が気がかりだわ。
でもその前に、
「ウエイターくん、おかわり!」
このお酒も飲みやすくて美味しいのよね。ぶどう酒かしら?口当たりもいいし、女性には最高!私ってお酒飲んでもなかなか酔えないんだけど、美味しいから満足です。
お肉とお酒を一通り堪能し、チャラ男に会計を任せてお店を出た。
さっきまで晴れていた空が、いつの間にか曇って星が見えなくなっている。不味いな、一雨来そうだ。
早いとこ宿を見つけてしまおう。宿に入ってしまえばリリムとマリーヌは朝まで心配しなくても大丈夫だし。
安い宿、安い宿・・・っと、探し歩いたけど、別に安いところに泊まる必要なんてないんだった。今私は報酬で得たお金がたんまりと残っている。
せっかくだし、普段は入れないような高級宿に泊まってもいいんじゃない?
そんなことを考えながら、リリムとマリーヌを警戒しつつあるいていると、大きな宿を見つけた。
大きな門構えに、色とりどりのクリスタルをライトアップしたイルミネーション。そしてなんといっても、柵で囲まれた範囲がデカイ。
普段ならばこんなところ、絶対に踏み入れることは無いだろう。
が、今の私は違う。1泊ぐらいなら大丈夫よ。
「こんばんは〜。」
入り口の門をくぐり抜けて、敷き詰められた飛び石を渡る。大きな開き戸を開けると立派なロビーが広がっていた。
天井には光石を埋め込んだ大きなシャンデリアが吊るしてあり、部屋全体を淡い光で照らしている。
正面奥にはフロントがあり、真ん中にはいかにも高そうな円形のソファーが置いてある。ロビー左右の壁際にも立派なソファーが置かれており、間違いなく私は場違いだと認識させられる。
ん?今何か・・・。
右手のソファーに人影が見える、桃色の髪の女性と、緑色の髪にとんがり帽子を被った女性・・・。
「お邪魔しました。」
なんで、どうして奴らがここに!!?
入り口の飛び石を駆け足で後戻りして、私は夜の闇に紛れる様にそのまま走りだした。
「セーツーナーサーマー!!!!」
見つかった!?まさか宿で待ち伏せとは思わなかった!
どうして私がこの宿に来ると!?
「やはりお姉様は高級宿をお選びになりましたね。私たちの予想は的中です!」
マリーヌが飛行魔法で飛んでくる、これは逃げられないかも・・・。
「来んな変態ども!!」
私は路地を見つけて駆け込んだ。
「おっと、同じ手は食いませんよ!エアウォール!」
路地に入ろうとした途端、ブヨンとした何かに当たって跳ね返された。目に見えない壁の様な物に押し返された様だ。
くそ、マリーヌの魔法ね。私を追い詰めようなんて、従者として失格よ!!
「さあ、追い詰めましたよお姉様!!一緒に温泉に行きましょう!!」
「はぁ、はぁ・・・セツナ様・・・。
抱いて!!!」
「お前は特に慎め!!獣か!!?」
全力疾走してくるリリム目掛けて得意のドロップキックを食らわせる。最近では更に蹴りに磨きがかかってきたと思う。
「あん❤︎激しい!」
「だから悦ぶな!!!」
とりあえず、粛正を試してみるしかない。レベルも上げたんだから、ちゃんと効いてよ!!
「あんたら、いう事が聞けないならわかってるわね?今ならまだ許してあげるわよ。」
レベルを上げた粛正がどんなものかはわからないので、まずは脅しをかける。リリムは腹痛程度では諦めないかもしれないが、マリーヌはさっきので懲りるかもしれない。
「お、お腹が痛いのはもう嫌かなぁ〜、なんて。ね、リリムさん?」
お?マリーヌは案外大丈夫かも?
「何を言ってるんですかマリーヌさん、セツナ様への愛はその程度で打ち砕かれるんですか!?
私は、抱いてもらうその日まで諦めるつもりはありません!!」
何言ってんのこいつ、あれかな?洗脳のスキルを覚えないとダメなのか?
「し、しかし・・・。」
マリーヌだけは弱腰の様だ。リリムを見せしめにするか?
粛正の程度によっては二度と変気を起こさせないかもしれない。ただ、マリーヌは一緒に温泉へ浸かりたいだけなのだからそこまで警戒することもないのか?
まぁ用心するに越したことはないわね。
「私は、一人でも諦めない!!!」
なんでカッコつけてんの?そういう場面じゃないんですけど。立ち上がって、また走り始めたリリムにスキルを使用する。
「粛正!!」
スキルを使ってみたが、特に何かが起きた気配はない。しかし、リリムが急に立ち止まって一歩後ずさる。
お腹を抑えたりはしてないみたいだけど、どうなったのかしら?見た目ではわからないわ。
「な、なんで貴方がここに!?」
?
突然リリムの焦点が変わった、何か幻覚みたいな物でも見えているのだろうか?
「は、はひぃぃぃいいい!!!すいませんすいません!!!」
急に土下座をして謝り始めた。何がどうなったというのだろうか?
「その様なことは決して!!私は・・・すいませんでしたぁぁぁあああ!!!!」
なんだろう、苦手な人でも見えているんだろうか?
あんなに取り乱したリリムを見るのはいつぶりだろう。村にリリムの従兄弟にあたるお兄さんが帰ってきた時以来かな?
確か、リリムはあの人苦手だったわよね。怒ると手がつけられない程怖かったし。
でもあれって、子供の時だったわよね。今でも苦手なのかしら?というか、今リリムが何を見ているのかが気になる。
「許して下さいレイ兄ちゃん!!!」
深々と頭を下げて、リリムは許しを請うた。しかし、これで確信が持てた。
やっぱり従兄弟のお兄さんが見えているみたいだ。
レイ兄ちゃんことレイモンドがその人にあたる。どうやらレベルを上げた粛正は、その人の最も苦手とするものが見えると仮定できそうだ。
腹痛の方が強いんじゃ?とも思うが、これはこれで精神的にもきつそうだ。
しばらく見ていると、今度は頭を抱えて痛がり始めた。
「ぎゃあああああ!!!頭が割れるゥゥゥゥうううう!!!
しかもお腹もキターーーー!!!!?」
さらには腹痛まで襲ってきた様で、慌ててどこかへ走り去っていった。
腹痛、頭痛、幻覚。まさしく三重苦ね。肉体的にも精神的にもダメージを与えるとは、恐ろしい・・・。
ちらりとマリーヌを見たが、顔が青ざめていたので少し安心した。
「マリーヌ、まだ続ける?」
満面の笑みでダメ押しをする。
「へっ?
い、いえ。とにかく、宿を探しましょう!温泉は別にいいかなぁ〜って思ってた所です!!」
引きつった笑いを浮かべるマリーヌを見て、私は勝利を確信した。
「物分かりが良くて助かるわ。」
あとは、リリムの出方を伺うだけね。
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