第45話 肉と酒

 とりあえず、スキルの確認は終わったけど。リリムとマリーヌの対策を考えないと。

 

 粛正のレベルを上げたから、何とかならないかな?でも、インターバルがあると困る。こればっかりは効果を実証してみないと何とも言えないわね。

 

 スキルの詳細にも対象を粛正するとしか書かれていないし。腹痛の後はどうなるのかしらね。

 

 はぁ、あったまりながら考えよう。

 ここの岩盤浴のいいところは、隣に小さな温泉が引かれているところ。温泉も岩盤浴も楽しめるなんて、いい店だわ。

 

 一人でのんびり温泉に浸かるって、最高ね。やかましい仲間がいないこの幸福感と安心感。普段の柵から解き放たれた気分だわ。

 

 そう言えば、購入した武器の名前を決めてなかった。早めに銘を付けないと忘れちゃいそうだ。

 白と黒の短剣。細っそりとした美しい剣だ。それ相応の名前を付けたいけど、名付けって苦手なのよねー。

 

 白と黒って、やっぱり連想するのは光と闇とか、太陽と月。ありきたりだけど、覚えやすい方がいいわね。

 太陽と月、少し捻りが欲しいわね・・・。

 日向、日光、陽光・・・日華。にっか!いいや、日華にする。私にしては捻った方ね。

 それなら黒い方は月華、げっかでいいわ。そうしよう。

 日華と月華。後であの札を持って念じれば良いのよね。忘れずにやろう。

 いや〜、一人っていいわぁ。

 色んなこと考えられるし、好きにのんびりできる。わたし生涯独身でもいいかも。

 

 ひとり、万歳。

 

 それからしばらく一人の時間を楽しんだが、ソロソロ陽も落ちてきて外も暗くなってきた。お腹も空いてきたし、名残惜しいけどそろそろ上がろうか。

 わたしは温泉から上がって脱衣所へと戻った。身体を拭いて着替えるが、浴衣を着ようかと思って躊躇する。

 もしまた追いかけられた時に、浴衣だと動きにくい。しかし、一日中着ていた服を着直すのも嫌だ。

 

 とりあえず、タオルを巻いて残った牛乳を飲んだ。

 

「ぷはぁ〜。うます!」

 

 とりあえず、浴衣でいっか。何とかなるなる。あんまり考えても仕方ないし、何より私は浴衣を着たい。

 

 とりあえず浴衣に着替えて、支払いを済ませる。個室で長々と入っていたが、1500ルクと安めだった。

 ここの店、イイね!

 

 ガラガラ。

 

「ありがとうございました。」

 

 おばちゃんは少し緊張気味に私を送り出してくれた。蠱惑の効果があるって事は、私よりレベルが低い。と、言う事は、恐らく調教も容易く出来るはず。

 これは敵を見定めるにはピッタリな組み合わせと言える。

 お腹が減ったので、とにかくどこかでご飯を食べたい。リリムやマリーヌに見つかる前にどこかのお店に入らないと。

 でも、流石にもう諦めたかな?

 

 少し歩くと、『肉と酒』とデカデカと掲げられた看板を発見した。この街はデカイ看板が流行っているのか?

 なんて事を思ったが、肉につられて中へと入った。看板同様中は広く、大勢の客で賑わっている。

 香ばしい肉の香りが漂ってきて、食欲をそそる。

 

「お、お一人様でしょうか!?」

 

 ウエイターが緊張気味に話しかけてくる。この人もテイム出来そうだ。

 

「はい。」

  

 ウエイターは私をテーブルへと案内してくれた。が、店のど真ん中に置かれた場所で、何故か他より一段高いところにある。

 

「えっと、他の席は空いてませんか?」

 

「す、すみません。ただ今他は満席でございまさして・・・。少しお待ちになりますか?」

 

 待ってもいいけどお腹も空いた。別にここでもいいか・・・。


「それならココでいいです。」

 

 なんだか落ち着かない、心なしか視線を感じる。

 

「とりあえずおススメください。お酒も甘いやつを!」

 

 たまにはお酒も飲まないとね、やってらんないわよ。両肘をついてテーブルにもたれ掛かり、悪態を吐く。

 すると後ろの方から足音が聞こえてきた。


「お姉さん一人?一緒に飲まない?」

 

 見ると、チャラそうなのが三点セットでやってきた。私の一人の時間を邪魔するつもりか?

 

「誘いは嬉しいけど、他を当たって貰える?」

 

 ちょっとお腹が空きすぎて機嫌も悪いんですけど。あまり構わないで貰いたい。

 

「いいじゃん。一人なんだろ?楽しく飲もうぜ。」

 

 一人が私の横に腰掛けて、肩に手を回してきた。

 気持ち悪いから勘弁してよ。そう言うチャラいのとかマジ勘弁。しつこいと、流石に怒るわよ?

 

「ねー、いいだろ?黙っててもわかんないぜ?」

 

 そいつがそう言って私の手を握った瞬間、プチんと音がした気がする。

 そう、キレちゃいました。

 と、私がそいつを殴りかかろうとした途端、ガタンと椅子をひっくり返して、男は床へ転げ落ちた。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!!!」

 

 どーゆーこと?

 

『人王覇気が成功しました。』

 

 頭にテロップが浮かび上がり、なんとなかく納得した。意識してなかったのに、どうやら覚えたスキルを使ったようだ。

 ガタン、バタン。

 

 周りからも同じように何かが倒れる様な音が連続して聞こえ始めた。見ると、店の中の全員が縮こまってしまっている。

 

 へっ!?店全体に効果が出ちゃった?そもそも使ったつもりは無かったんだけど・・・。

 

「ず、ずみばせん。た、助けて!!」

 

 なんだかよくわからないけど、全員が全員同じ様な状態だ。食事を食べたかっただけなのに、ウエイターまでしゃがみ込んで丸くなっている。

 それどころじゃない様だ。

 

 困ったわね、大体こいつらが悪いのよ。変に突っかかってきたりするから・・・。

 まてよ?せっかくだし、スキル使って見ちゃおうかな。どうせ全員萎縮しちゃってるし。

 この店にはざっと50人以上の人がいる。厨房を含めるともっとかな?この状態だと、調教率100%なのよね?

 勇者を捉える足がかりに、まずはココの人達をテイムして見よう。女将さんみたいに、普通の生活も出来るんだし、必要な時に頼らせて貰えればいいわ。


 そうと決まれば早速!!


 乱獲!

 

『店内の67名を捕獲しました。』

 

 前まで出てこなかったテロップが頭に浮かぶ、これは便利だ。

 乱獲も捕獲と同様に見えない様だ。SPは25消費したが、十分元は取れている。

 では、続いて・・・

 

 乱れ調教!!

 

 調教は一人でも煩いので、使ってすぐに耳を塞いだ。が、特に何も聞こえない。

 あれ?不発だった??

 

『67名の調教に成功しました。現在捕獲数は0です。』

 

 またも頭にテロップが浮かんでくる。前は一体ずつだったのに、とても簡素化されていてわかりやすい。

 しかし、これで全員をテイム出来たのだ。するべき事はただ一つ。

 

「全員、私の事を注視せずに、普段通りに食事をしなさい!!終わったら、私の命令があるまで普通に過ごすこと!!」

 

「「わかりました。セツナ様!!」」

 

 お、なんか全員従順だぞ?やはりおかしいのはリリムとマリーヌだけってこと?

 レベル差の問題なのか、覇気でテイムした違いなのか、どちらにしても今回は結果オーライ!従者が一気に増えちゃった。

 

「あ、あんたはちょっと待ちなさい。」

 

 私に近寄ってきた奴にはお仕置きがある。そもそもコイツの所為で、一人の食事を楽しめなくなるところだったのだ。

 

「な、何でございましょう?」

 

 ひきつる様な笑みを浮かべて、そいつは私の前に跪いた。

 なんか、すっごい優越感。いいわね。

  

「とりあえず、詫びとして私の分の代金払いなさい。」

 

「そ、それくらいならば喜んで!!」

 

 ま、飯の邪魔したんだからそれくらいはいいわよね?

 あ、そうそう。


「ウエイターさん、お腹空いたから早く持ってきてー!」

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