第2章 魔人王編

第43話 一人になりたい

 魔物だけでなく人をもテイムできる職業、捕獲調教師。奇妙な職業に巡り合ったのは、ど田舎に暮らす一人の村娘だった。

 

 彼女を突き動かすのは、婚約を破棄した勇者への復讐心。魔王をも倒したその勇者をテイムして、屈辱を味あわせるのが彼女の今の目標だ。

 

 歳の頃はまだ20であった彼女は、一時勇者に婚約をされた程の女性だ。復習などしなくとも、別の男を捕まえるのはさほど難しくはなかっただろう。

 だが、彼女は許せなかった。絶対にあの女ったらしの勇者を叩きのめしてやらねば気は済まない。

 

 人をテイムするという特殊な力を手にした彼女は、思い描く未来に向かって突き進んだ。

 

 彼女は捕獲調教師の上位職になれるまで職業レベルを上げていた。クエストで稼いだお金を使い、職業の上限を解放する秘薬を高額で購入した。

 そんな彼女の名前はセツナ。

 幼馴染のリリムに、魔王を討伐した元勇者のパーティーである大魔導師マリーヌ。テイムしたスカイファングのラックと共に、今日も波乱な1日を送っていくのだった。

 新たな職業、魔人王となって。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「こっちに来んなぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 水の都アクアパールの街の中、セツナは疾走していた。

  

「いいじゃないですかお姉様。一緒に温泉に行きましょ〜!」

「私も行きますよぉぉおお!!」

「(では、私はマリーヌの家で待っております。)」

 

 なんでラックだけ忠実なのに、リリムとマリーヌはこんなに自由なのよ!!

 でもおかしいわ。私とリリムがマクシム薬を飲んだ後、急に二人がおかしくなった。

 

 上位職の魔人王なんて変な職業になったけど、何もスキルなんて使ってないわよ?

 

「ふふ、もう少し距離を詰めれば、一緒にテレポート出来ます。リリムさん、飛びますよ!」

「かしこまリリム!」

 

「フラップ!!」

 

 マリーヌが魔法を使ってリリムと共に飛び上がった。私は咄嗟に進路を折り曲げて路地に入る。

 あいつら、強制的に温泉にテレポートさせる気だ。別に温泉は入らなければなんて事ないが、向こうにはマリーヌがいる。

 実力じゃあ敵わないわよ!

 

「悪く思わないでよ!こっちも身を守る為に攻撃させて貰うわ!!」

 

 粛正!!

 

 視認できる距離であれば、効果がある事はリリムで検証済みだ。二人まとめて振り切ってくれる!!

 

「そ、そんな!!?」

「こんな所で!?」

 

  

「不味いです!!テレポート!!!」

 

 お腹を抑えながら、二人は何処かへ消えていった。

 危なかった。粛正のレベルを上げといた方が良いかもしれないわね。どこか一人でくつろげる所が無いかしら?

 

「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが。」

 

 路地から出て、近くにいた二人組の女性に聞いてみる事にした。


「は、はい!?な、なんでございましよう!?」

 

 声をかけた女性は、何を驚いたのかわからないが、とても緊張したように返事を返してきた。

 なんでそんな敬語なの?

 

「この辺で、一人でリラックス出来る様な場所はありませんか?」

  

 無闇に探すより、知ってる人から聞いた方がいいだろうし。何より早くて確実だ。

 

「そ、それならこの先に個室の岩盤浴がございますよ。そ、そちらなんてどうでしょう?」

 

 岩盤浴か、それもいいわね。それに個室なら、邪魔は入らないだろうし。

 何よりお風呂には入りたかった。岩盤浴でリラックスして、それから身体を流すのも悪く無いだろう。

 

「ありがとうございます。ちょっと行ってみます。」

 

 教えてくれた女性にお礼を言って、私は岩盤浴へ向けて歩き始めた。すると後ろから、先ほどの女性の声がかすかに聞こえてくる。

「ねぇ!話しかけられちゃったわ!」

「いいなぁ!!」

 

 いったい、なんだと言うんだろうか?

 私、なんか顔についてる?

 

 女性が指差した方へ歩いて向かうと、やがて大きな文字で岩盤浴と書かれた看板を見つけた。

 お店と看板のサイズがほぼ同じなんですけど・・・。看板デカすぎやろ。

 

「こんばんは〜。」

 

 入り口にかけられた暖簾をくぐると、こじんまりとした清潔そうなロビーがあった。カウンターにはおばちゃんが腰掛けて読書をしている。


「いらっしゃい・・・!?」

 

 おばちゃんは本を置いてこちらを向くと、さっきの女性と同様に驚いた様な顔をする。

 流石に不安になって、鏡がないか見渡したがここには置いていない様だった。

 そんな驚く事ある?

 

「よ、ようこそいらっしゃいました。

 お一人様でよろしいでしょうか?」

 

「はい。」

 

 おばちゃんはとても丁寧に私を案内してくれた。さっき聞いた通り、個室の岩盤浴が設けられていた。

 なんでも薄い床の下に温泉の源泉が通っており、その熱で岩盤を温めて当たるんだとか。源泉の温度はかなり高めの様だ。

 

 用意された岩盤浴着に着替えて、大きめのバスタオルを持って中へ入った。

 飲み物が売店に売っていたので、脱衣所の保冷棚へ入れておいた。

 

 狭い個室の所為か中は思ったより暖かかった。バスタオルを敷いて寝転ぶと、背中からジワジワと温められて気持ちがいい。

 

 脱衣所に鏡があったので覗いてみたけど、特に何もなかった。

 本当に何だって言うの・・・?

 兎に角、まずは落ち着いてステータス確認ね。

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