第41話 なんか・・・おしい

「お姉様、任せてください!!」

 

 転倒して身動きの取れない私に、マリーヌが意気込んで言った。この見えない敵に対して、何か策でもあるのだろうか?

 それも、倒さずに捕まえる方法が。

 

「アイシクルゾーン!!」

 

 マリーヌは杖を構えて魔法を唱えた。私やリリムといった仲間たちを避ける様に、マリーヌの足元から高原に広がる大地が凍り始めた。

 急速に広がっていくマリーヌの魔力によって、周囲100メートル近くに渡って草木が凍りついた。

 木々は地面から1メートル程のところまで凍りと化し、凍えるような冷気を放ち始める。そして足元の凍りついた大地に、不自然な氷の彫刻がうかびあがった。

 地面から1メートル程空へ向かって伸びた氷が、等間隔で2本ずつ並んでいる。

  

「まさか、あそこにホーンホースが!?」

 

 それは4本の足を氷によって地面に繋ぎとめられたホーンホースに他ならなかった。

 本体は全く見ることができないが、マリーヌの魔法によって地面に固定されているのだ。

 これなら、あとは私のスキルで捕獲することが可能だ。

 

「流石マリーヌ!情報をくれなかったのは問題だけど、それを十分補える成果だわ!」

 

 リリムには到底出来そうにないわね。

 

「さらに!弱体化の呪い、カースレイン!!」

 

 続けざまに魔法を使うマリーヌ。凍った一帯に紫がかった黒い雨が降り注ぐ。捉えたホーンホースは呪いの雨によって、その姿を浮き彫りにした。

 姿が見えないのでわかりにくいが、何もなかった空間に、確かな馬のような形が浮かび上がった。

 普段見かける馬車を引っぱっている様な馬よりも、少し小柄だ。

 

 でも、これなら確実に狙いを定められる!現れた姿は全部で9体。レベルアップにより上昇したSPなら、全て捕獲可能だ。あとは、調教の成功率次第。

 

「ナイスマリーヌ!それじゃあ纏めて捕獲するわよ!!」

 

 捕獲×9!!

 

 相変わらずスキルが発動したのかが目に見て取れないため、一度目を閉じて確認する。

 

 捕獲成功数18

 

 よし、確実に捕まえてる。あとは、調教できるかだ。

 

 調教!

 まずは一匹目!

 

『ブグルルルルルル!!?』

 

 それまで聞こえなかった魔物の鳴き声が鳴り響き、スキルを使用したホーンホースがガクガクと震え始めた。

 

『調教に失敗しました。』

 

 失敗だ、リリムの時の事もある。二回目を試してみよう。

 

「もう一回!」

 

 調教!!

 

『バブルルルルルルルルルル・・・・・。』

 

 頼むから、うまくいって・・・。

 マリーヌ放ったカースレインが降り止んで、再び顔を出した青空を仰いだ。

 

『調教に成功しました。』

 

 レベルアップが功を奏したのか、それともマリーヌの魔法のおかげか一体目の調教に成功した。

 

「30万ゲットォォォォォオオオオ!!!」

 

 大金が一つ確定し、高らかと拳を突き上げた。あと8体!!

 何が何でも目標金額ゲットよ!!

 リリムの魔法に頼らなくても、調教できる事はこれでわかった。あとはなりふり構わず捕まえていくだけだ!!

  

「リリム!一番右のやつはテイムしたから、ほかの8体にいつものやつ使っちゃって!!」

「自分にも使っていいですか!?」

「それはダメ。」

 

「けちんぼぉ!!」

 

 リリムは頬を膨らませながらも、敏感肌を最大の威力で発動した。これで更にスキルの効果が上がるはずだ!

 

 いっぺんにやっちゃえ。

 調教×8!

 

『『ギブリュルルルルルルルルルルル!!!!?』』

 

 彼方此方から、劈く様な魔物の叫び声が上がりはじめた。あまりに一斉に鳴き始めたため、咄嗟に耳を塞いだ。

 隣を見るとラックも耳を垂らして顔をしかめている。

 いっぺんにやるのは不味かったわ。こんなに煩いなんて!

 

『調教に成功しました。』

『調教に成功しました。』

『調教に成功しました。』

『調教に成功しました。』

『調教に失敗しました。』

『調教に成功しました。』

『調教に成功しました。』

『調教に成功しました。』

 

 次々に成功のテロップが頭の中に浮かんでくる中、一体だけ成功していない個体がいた。

 成功すると捕獲は解けるはず。目を閉じて確認したが、やはり現在捕獲数は1残っている。

 

 根性のあるやつが残ったのかしら?

 SPにもまだ余裕があるから、成功するまでやってみましょう。

 

 それからなんと3回4回とスキルの使用回数だけ増えていきます、5回目でようやく調教する事に成功した。

 最後には声を上げる気力も無くなったらしい魔物は、ブルブルと震えるのみとなってしまった。

 あまりに時間がかかったせいで、体についていた雨も随分と流れ落ちた。

 

 ともあれ、これで9体全てのホーンホースの捕獲に成功した!

 

「270万、ゲットよぉぉぉおおおお!!!!

 

 私は歓喜に打ち震えた。

 あと1体、30万で目標額に達成する。リリムの分まで貯めるのはどうかと思ったりもしたが、仲間に賢者の上級職がいるのは強みだ。

 なんとか有用なスキルを覚えさせて活用したい。

 

「マリーヌ、もう氷の魔法を解いても大丈夫よ。全部テイムできたわ!」

「流石お姉様です!この数をこの短時間で、しかも無駄なダメージを負わせずにテイムしてしまうなんて。」

 

 絶賛してくれて嬉しいが、実のところ私も驚いている。まぁリリムのお陰もあるけどね。

 あの魔法はなんだか容認したくないのよね。

 

「さあホーンホースたち、姿を見せなさい!今日から私が貴方達の主人なんだから。」

 

 私の掛け声を合図に、ホーンホースが次々と姿を現し始めた。

 それは白い毛並みに茶色の鬣を靡かせて、一本の角を生やしていた。姿はまさしく馬であったが、角の生えている場所が想像と違う。

 

「何故にそこから角が!?」

 

 そう、額にではなく、鋭く伸びた一本の角は、何故か鼻の先から突き出していた。

 

 なんか・・・おしい!!

 ユニコーンではないのはよくわかった。ただ、なんとなく残念な気持ちになったのは、私だけでは無かったはずだ。

 

 仕方ない、あと一体を探すとしよう。

 魔物の姿形はお金を前にどうでもいい事だし・・・。

 

 それから暫くホーンホースを探し歩いたが、ラックもその匂いを感じ取る事は出来なかった。

 いつの間にか空は夕焼けに染まっており、高い場所にいる所為か段々と肌寒くなってきた。

 

「今日のところは一旦帰ろうか。」

「そうですね。」

「そうしましょう。」

「(お任せします。)」

 

 満場一致?でアクアパールの街まで、一旦引き返す事にした。

 まずはコイツらをギルドに連れ帰って、報酬を受け取る。

 残る30万は、明日にかけるわ!

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