第40話 かしこマリーヌ!

 結局、足りないお金はマリーヌに頼る事になってしまった。情けないったらありゃしない。

 でも、マリーヌは私の従者なんだから、この子のお金は私の物って考え方もある。つまり、私の実力!!

 

「そこの嬢ちゃ〜ん!!」

 

 私たちが道具屋の前で買ったものの整理をしていると、さっきの武器屋の店主が走って来た。

 どうしたんだろ?

 

「はぁ、はぁ・・・。

 よかった、まだ出発してなかったんだな。」

「どうかしたんですか?」

 

 店主は右手に白い物を握って息を切らせている。

 なんか忘れ物でもあったのかな?

 

「あぁ、俺の作った武器は使用者に銘を付けてもらうんだが、準備してたら嬢ちゃんたちがいなくなっててよ。

 慌てて留守番を弟子に任せて探してたんだ。見つかってよかった。

 もう諦める寸前だったぜ。」

 

 そう言って、店主は手に握っていた物を私に差し出して続けた。


「これは銘札だ。これに銘を書いて、柄にあててくれ。

 そうすれば、嬢ちゃんだけの銘がその剣に刻まれる。大切にしてくれよな。」

「わざわざ、ありがとうございます。」

 

 私はそれを受け取った。店主が銘札と呼んでいたものは、白い小さな札だった。

 こんなもので、名前が付くの?

 

「じゃあ、使い方は今言った通りだ、簡単だから気に入った名前が浮かんだら刻んでやってくれ。

 銘を得る事で、武器も真価を発揮できるからな。

 達者でな!」

 

 それだけ言い残して、店主は颯爽と店の方へ向かって走っていった。

 行動力高いなぁ。私ならわざわざ追いかけたりしないと思うけど、職人としての誇りだろうか?

 

「名前って、決まってます?」

 

 マリーヌが札を眺めながら聞いて来たが、正直いきなり言われてパッとは出てこない。

 私もそんなに名前つけるのとか得意じゃないからなぁ。

 

「まだ特にはないわねぇ。」

「リリムとセツナで決まりですね!」

「何がいいかしらねぇ。ま、おいおい考えるわ。」

 

 リリムの話は完全に無視。いちいち相手にしてるから面倒臭いのよ。

 最初からいない物と考えて行動しましょう。

 

 ちなみに、私たちは防具の購入はやめた。値段はピンからキリまで様々だったが、いいなと思ったものが全てとんでもない値段だった。

 安いものもあったのだが、デザインが気に入らなかったので止める事にした。

 やっぱり、普段使うならデザイン重視っしょ。マリーヌからは少額かりて、すぐに借りを無くしてしまいたい。

 なんだかんだで、あまり沢山は借りたくなかった。


 兎に角、これでようやく私たちも、獲物の待つアルペティア高原へと向かえるのだ。

 ホーンホース、ネーミングセンスの通り不細工そうな馬なんだろうか?


「それじゃ、気を取り直してテレポートよろしく!」

「かしこかしこマリーヌ!」

 

 ・・・・・・。

「おい。」

「だ、ダメですか?」

 

 アウトォ〜。

「それはダメ、絶対。馬鹿になるわよ?」

「セツナ様!それはどう言う意味ですか!!」

 

 そのまんまの意味だよ馬鹿。

 伝染しちゃってんじゃないのよ。マリーヌまで使い物にならなくなったら、私どうするよ?

 

「で、では・・・。テレポート!!」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 少し冷たい風が髪を靡いた。

 マリーヌのテレポートにより、高原の一画へと移動できたようだ。

  高い山地に連なった平坦な地形から、所々に大小様々な起伏面がある。木々は申し訳ない程度に所々その顔を覗かせるだけで、地には草木の鮮やかな緑色が一面を覆っている。

 空を見上げれば、青々とした晴天が私たちを出迎えてくれる。

 視線を横にずらしてみると、少しばかりの高い山脈があるだけで、続いていく高原の切れ間が空の青さと交わっている。

 

 清々しく、昼寝でもしたいような心地よさだ。

 

「見てくださいセツナ様!あっちになんか居ますよ!!」

「お姉様、いただきマリーヌってのはどうですか!!」

 

 コイツらが居なけりゃな!!

 私の側で大人しくしているのはラックだけだ。あの二人もラックを見習ってほしいと切に願う。

 犬を見習う人間って、本当に恥よね。

 

「あんたらうっさいわ!少しは始めて来た場所への余韻に浸らせろ!!」

 

 マリーヌはいつまでそのネタに拘るつもりだ?そもそも、誰もそのネタにウケてなんて無いわよ。

 

「(セツナ様、あちらから複数の魔物の臭いがします。)」

 

 ラックが太陽の浮かんでいる方に顔を向けて、意思を飛ばして来た。私の味方はあんただけだわ。

 やっぱりテイムするなら人間じゃなくて魔物がいいわね。素直だし。

 

「ありがとう。目的の魔物かもしれないし、行ってみましょう。」

 

 頭を撫でてやると、大きな尻尾をブンブンと振り回して喜んだ。

 でかいけど、犬みたいで可愛いわね。人間じゃないだけで好感が持てるわ。

 

「あんたらも行くわよ!」

 

 リリムとマリーヌの背中を叩いて、魔物がいると思われる場所へと向かう。

 

「(近いです。)」

 

 10分程度進んだところで、ラックが鼻を仕切りに動かして耳を立てた。私も少し警戒して辺りを見渡すが、魔物の姿は確認できなかった。

 

「きゃっ!!」

「なにっ!?」

 

 リリムが突然声をあげたのに驚いて、後ろを振り返った。

 

「あ、すいません。躓いちゃいました。」

 

 地面から出ていた岩の出っ張りに躓いた様だ。少し進んだだけだが、急に岩肌が増え始めた気がする。

 確かに歩きにくいけど。

 

「脅かさないでよね。」

 

 気を取り直して、警戒しながら歩みを進める。しかし、魔物らしい物は全く見当たらない。

 

「(セツナ様!!)」

 

 ラックから強い意志が頭に響く様に届いた。ラックはそのまま飛びかかって、私を突き飛ばした。

 

「っ・・・・。」

 

 ラックまで、一体なんだって言うのよ!!

 悪態をついたその時、私の後ろにあった木がボゴッと言う音を立てて表皮を凹ませた。

 

「えっ!!?」

 

 何も見えなかった、何が起こったって言うの!?

 

「話には聞いていましたけど、半信半疑だったんですがどうやら噂は本当の様です。

 お姉様、気をつけてください!奴ら、ホーンホースの生け捕りが高額な理由は、その姿が見えないからです!!」

 

 マリーヌが杖を構えて叫んだ。


「そう言う情報は、確定してなくても教えときなさいよ!」

 

 そりゃあ見えない相手なんて、普通は生け捕り出来るわけないじゃない!

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