第38話 ちょっと舐めてたわ

 一時でもリリムがまともになったと思い込んでいた自分に腹が立つ。まさか私に近づく気を窺っていたなんて・・・。

 もう、私がリリムに気を許す事は無いわよ、我慢の続かなかった自分を恨むのね。

 

「次やったらただじゃおかないわよ。

 粛正のレベル上げてでもキツイ一発をお見舞いしてやるからね!!」

 

 リリムはトイレから出てきてげっそりしている。

 

「ごめんなさいごめんなさい!!

 調子に乗りすぎました!!もうお尻が大変な事になるんで、これ以上は許して下さい!!!」

 

 口では何とでも言えるわよね。

 肝心なのは行動よ。有言無実行なんて容赦しないからね?

 

「わかったなら、行動で示しなさい!

 今から一角獣を捕まえに行くんだから、しっかり働いてもらうわよ!!」

 

 マリーヌとラックは静かに私たちのやり取りを見守っている。

 まぁ、二人に飛び火する事は私もしない。だって、まともなんだもの。

 ちなみに、精霊は近くにいるらしいけど姿を隠している。

 あまり他人には見られたく無いらしいのだ。私が呼べば応じて出てくるよう命令してある。

 

 兎も角、一角獣がいると言う場所に向かおう。何よりもお金が大事だし。

 早く職業レベルの上限を解放したい。

 

「さ、案内はよろしく頼むわね、マリーヌ。」

「任せてください、お姉様!」

 

 マリーヌは背筋をピンと伸ばして敬礼する。

 そんなに緊張しなくていいわよ?貴方に粛正なんて使う気ないから。

 

「ただ、その前に一つご提案があるんですけど。」

 

 上げた右手を下ろして、マリーヌは進言する。

 

「提案?」

 

 なんだろう?お昼なら、さっき食べたはずだけど。温泉は行かないわよ?

 

「お姉様とリリムさんの装備を整えた方がよろしいかと。」

 

 マリーヌに言われてハッとなる。

 確かに、村を出てからロクな装備を入手していない。先の戦闘だって、マリーヌのおかげで楽々勝てたがいつもそうとは限らない。

 うまく武器を扱えないまでも、自分の身を守る手段を持っておかなくてはこの先どうなるかわからない。

 うっかりしてたわ。

 

 そもそも無計画の旅だったし、いい加減必要な物は揃えた方がいいわね。

 

「マリーヌの言う通りね、まずは準備をしましょう。無計画続きじゃ、先が思いやられるわ。」

 

 

 

 

  

 と、言うことで、私たちはまず武器屋へ向かった。それも何故か王都にやってきている。

 マリーヌの勧めで王都の武器屋を紹介してもらったのだ。

 

「嬢ちゃん達の職業はなんだ?」

 

 スカガンヘッドの厳ついおじさんがこの店の店主らしい、顔は怖そうだが中々にフランクな感じだ。

 

「私はテイマー。こっちは賢者よ。」

 

 本当は捕獲調教師だが、伝わりにくそうなのでテイマーで話を進める。

 

「賢者か!またレアな職業になれたもんだな。ならそっちの嬢ちゃんは杖だな。

 メイスなんてのもあるが、体格から杖の方が使い勝手が良いだろう。

 テイマーの嬢ちゃんは、短剣か鞭ってところかな?まぁ大概の武器は使えなくもないだろうが、その辺りが定番だな。」

 

 店主は簡単な説明をしたあと、それぞれの武器が置かれている棚へと案内してくれた。

 私はとりあえず短剣を見てみる。

 捕獲調教師で鞭使いって、なんかお決まりっぽいし、リリムが悦びそうなので気がすすまない。

 

 ナイフや包丁は使い慣れているので、短剣なら少々扱えそうな気がする。

 でも、単に力技なら前に簡易的に作ったブラックジャックも捨て難いわよね。

 

 リリムは杖の前に足を運んでいるが、ちょっと気がかりだ。変な物を選ばなければ良いけど。

 

「おじさん、性魔導師の杖ってありますか?」

「お、嬢ちゃんは聖職者系の賢者を目指してんのか?聖魔導師ならほれ、あっちだ。」

 

 明らかにリリムは店主の思いと違う物を言っている気がする。

 聖でなく性の方を指しているのだろう。

 

「リリム〜。ふざけてたら、わかってるわね?」

 

 間違っても購入させる様な事は出来ない。早いうちに釘を刺して置かなければ。

 

「わ、わかってますよ。

 ふざけてなんかいません!勿論聖職者の杖を探してます!!」

 

 絶対嘘やろ……。

 まぁ、これで変な杖は購入しないでしょ。私も自分の武器を選ぶとするか。

 

 こうして見ると、短剣って言っても色々あるのね。

 ダガーにナイフ、あとは・・・何これ。カタール?使いにくそう。

 そうねぇ、とりあえず二本買っとこうかな。小さいから双剣としてでも使いやすそう。

 

「おじさん、短剣二本買おうと思うんだけど、おすすめってある?」


 店主に聞くのが間違い無いわよね。

 

「嬢ちゃんは双剣使いにでもなるのか?まぁ短剣二本なら長剣を交えるよりは使いやすいかもしれんが、正直難しいぞ?」

 

「あぁ、その辺は大丈夫だと思います。

 私、農家仕込みの根性はあるんで。」

 

 まぁ、なんとかなるっしょ。

 それに、父から武器の扱いは多少仕込まれている。農家なら、魔物を追い払うくらい出来なければならないと。

 最近は武器も持たずに襲われてたから、あんまり戦って無いんだけどね。

 

「そうか。なら、これなんてどうだ?

 女性にはピッタリだと思うぞ?」

 

 店主が棚の端に飾ってあった二本の短剣を取ってくれた。

 柄や鍔の部分が白い装飾の短剣と、相反する黒い装飾の短剣だった。

 

「これは元々双剣用に作ったわけでは無いのだが、余りに組み合わせが良かったのでな、最近柄を替えて双剣用にしたんだ。」

 

 店主は鞘から柄にかけて白で統一された一本は、抜いてみると剣身まで白い金属で出来ている。

 もう一方は黒一色、剣身までも漆黒に染められている。細く伸びた刃はそれぞれ30センチほどの長さがあり、その付け根には丸みを帯びた細長い鍔が顔を出している。

 柄も女性が握りやすい程度に細く、柄頭と鍔の先端部だけ球体の様に丸みを帯びていた。

 各部位の素材は違うのだろうが、切先から柄頭に至るまで統一された白と黒は、一つの彫刻の様な美しさがある。

 

「すごく綺麗。シンプルだけど、素敵だわ。

 これにしようかしら。」


「気に入ったか?なかなか短剣での二刀流ってのは少なくてな、自信作だったんだがなかなか売れなかったんだ。

 マリーヌ嬢ちゃんの友人さんだし、安くしとくよ!」

 

 店主は豪快な笑みを浮かべていた。

 値段も安くしてくれるなんて、やっぱりマリーヌに頼ってよかったわ。

 

「いくら?」

 

「そうだな、大負けに負けて20万だ!」

 

 は?


「20万!?」

「安いだろ!!一本20万を、二本で20万ルクだ!」

 

 ちっげぇよ。高すぎだろ!!

 確かに半額って魅力的だけど、私ら今金稼ぎに行くところだっつうの!

 稼ぐ前からそんな大金持ってるわけないでしょ!?

 武器、ちょっと舐めてたわ・・・。

 

「そっか、ありがとう!とりあえず、リリムの方も見てからお会計をお願いしようかな。」

  

 不味いぞ!なんかマリーヌに紹介してもらった手前買う前提で話をしてしまった!!

 こ、こうなったらいっそのこと店主をテイムしてしまうか!!?

 ただ、女将さんの事もある。うまくいくだろうか・・・。

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