第37話 やっばりフェイクか
「ラック!何を咥えてきたのよ!」
私は、突然人を咥えて空から降りてきたラックに驚いた。そもそも、いつの間に羽なんか生やしていたのやら。
魔物って不思議。
「ガウ、ガウ。」
ラックが吠えた。そういえば精霊を倒した時に、五月蝿いからスキルを解除しちゃってたわ。
うっかりしてました。
意思伝達。
私はラックに向けて、ついでに仲間全体で会話ができるようにスキルを発動した。
もうスキル解除する必要ないわね。
使ってないと不便だわ。
「(セツナ様!この男が少女に銃を突きつけていたので、少女を保護してまいりました!)」
なんだ、そんな経緯か。
てっきりラックが面倒ごとを引っ張って来たのだと思ったけど、いい事してるじゃない。
「そういうことね。お嬢ちゃん、大丈夫だった?」
少女は私に似た栗色の短めの髪をしており、目は紫掛かった黒い色をしている。
整った顔立ちは年齢よりもどこか大人びて見える。手足はやせ細っており、来ている服はボロボロになっていた。
「この子が助けてくれたから、平気です。お姉さんは、この子の飼い主さんですか?」
弱々しい声で言いながら、彼女はラックの背中を降りる。
「ええ、私が飼い主よ。それより、貴方はどうしてこの男に追いかけられていたの?」
少女は男をチラリと見ると、身震いしてラックの後ろに隠れた。
「セツナ様、銃なんて高価なものを持っていたという事は、その男は一般ではありませんよ。
闇市などでも入手可能でしょうが、男の服装が気になります。
ラフな格好をしていますけど、胸にしているペンダント、何処かの貴族じゃないでしょうか?」
リリムがとんでもない事を言い始めた。もしそれが本当なら、とんでもない事をしでかした事になる。
「どどど、どうすんのよ!?
貴族だったら、私らタダじゃ済まないわよ!?」
「でも、その人がそちらの女の子を追っていた理由次第では、そうでもないかもしれませんよ?」
まあ確かに、いくら貴族と言えども許す許されないの線引きくらいはある。この男が何をしていたのか、確認くらいはしないとね。
でも、面倒ごとなのは間違いないわ。
ラックには後でしっかり言って聞かせるとしよう。
「貴方、名前は?」
とにかく会話から色々と聞き出していこう。情報がないと何もできない。
「私はクルーシャと言います。その方の奴隷です。」
奴隷か、少女のどこか憂いを帯びた表情の理由はそれなのね。
「私は毎晩、その方の命令で温泉で泥棒と盗撮をさせられていました。今日も、同じように命令をされたのですが、嫌になって逃げ出しました。
そこに、この犬さんが助けに来てくれたんです。」
泥棒と盗撮って、完全にアウトでしょ・・・。
「それ、証拠になるようなものって持ってる?」
少女はポケットから、小型のカメラを取り出した。そして、盗んだ物は女性の下着で、この男の家に隠してあるという。
「リリムさ〜ん。ギルドの人呼んできて〜。」
「かしこかしこの畏まリリム!!」
え?
リリムが走ってギルド内に入っていく。
今、あいつなんて言った?
「マリーヌ、リリムがなんか変なこと口走ってなかった?」
「奇遇ですねお姉様。私も今変な言葉を耳にした気がしたのです。」
まさかアイツ、頭打って正常に戻ったんじゃなくて、正常なフリをしてやがったか?
そもそも、アイツに常識的な何かを期待する方が可笑しかったという事か?
私は急にリリムへの怒りがこみ上げてきた。とりあえず、まずは確認だ。
実際こんな男はどうでもいい。
何かあってもテイムしてしまえば良いのだから。
「ただ今戻りましたセツナ様!」
直ぐにリリムがギルド職員を呼んでやってきた。ギルドでは町の治安を守る部署も存在し、取り締まりなんかも行なっている。
悪人はギルドに引き渡せば、そのまま必要な処理や手続きは向こうでやってくれるという寸法だ。
「この男が、強盗と盗撮を?」
ギルド職員の男性が、蔦でぐるぐる巻きにされた男を指差す。
「そうです。どうやら、奴隷に命じて犯行をおこなっていたようなんです。
この子が抵抗して、捕まえることが出来ました。これが証拠の入ったカメラらしいです。」
職員はそれを受け取り、男の身を拘束して中へと入った。
どうやら証拠物件の確認をして、裁判所へ引き渡す手筈のようだ。私たちは情報提供者という事で、特に何もする事はなかった。
しかし、奴隷であるクルーシャは、参考人として一緒に連れていかれた。
そして、私たちには嬉しい出来事が待っていた。
どうやら最近温泉での下着の盗難が相次いでおり、男は指名手配をされている張本人の可能性があるとの事。
もしそうであれば、懸賞金として150万ルクがギルドから支払われるとの話だった。
「よくやったわラック!貴方のおかげでもしかしたら目標金額を楽々達成出来るかもしれないわ!!
なんてった一人分の金額はほぼ確定したようなものじゃない。お手柄よ!!
今夜は美味しいお肉をご馳走するわ!!」
私が歓喜に沸いていると、ラックは尻尾をブンブンと振り回して喜んでいた。
さて、後はリリムの確認をするだけだ。
こいつ、あれ以降はおかしな言動をしていないが、ちょっとカマをかけてみるか。
「リリムもいい依頼を見つけてくれて助かったわ!今夜、好きにしていいわよ。」
リリムは無表情で私を見ていた。
普段なら鼻の下を伸ばして直ぐにでも襲いかかってきそうなものだし、性格が治っているならばそんな話は断るだろう。
どっちだ!?
リリムは黙ったまま下を向き、鼻の下を伸ばしてニヤリと笑った。
その角度じゃ、隠しきれてないわよ?
「お言葉に甘えてぇぇぇぇええええ!!!」
「やっぱりフェイクかぁぁああああ!!!」
粛正!!!
《ゴロゴロギュルギュルルルルルルルル》
「あ・・・あばばば、酷いですぅぅぅううううう!!!」
リリムの正体見たり、ど変態。
やはり、度を越えた変態は直す事は出来ないのね・・・・。
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