第35話 一角獣

 300万ルク、普通に生活してたら貯めるのに5、6年くらいかかりそうだ。

 いかなり大きな壁にぶち当たってしまった。

 まずい、コレは非常に困った事態だ。

 

「どうやってそんな大金集めればいいのよ!?敵を倒して経験値をいくら稼いだって駄目じゃない!」

 

 私の楽々レベル上げプランを、こんな事で棒にふるなんてあんまりだ。

 

「そうですね、ギルドの高難易度クエストを受注すれば、物によっては300万ルク以上の報酬が得られるとおもいます。

 ですが、果たして私たちのレベルでどうにかなるのか、それはわかりません。」

 

 頭を打ったおかげで真面目になったリリムが、真剣な顔で話している。

 気持ち悪いけど、これ以上ないほど嬉しいわ!貴方のそんな態度を、私は待っていたのよ!!

 

「あのぉ、お姉様。

 300万ルクくらいなら、私なんとか出来ますけど?」

 

 マリーヌがポツリと呟いて手を挙げた。

 

「えっ!?もしかして貴方は女神!?」

 

 もうそんな貴方が神々しくて見ていられない。なんて人材を獲得してしまったんだ。

 あれか?私の勇者に対する嫌がらせを、天が背中を後押ししてくれているのだろうか?

 そう言う事なら喜んで!!

 

「女神ではないですが、王様からの報酬に金銭もありましたので。

 沢山持っていても使い道もありませんし、使って頂いて結構ですよ。」

「駄目ですよマリーヌちゃん、お金をそんなに簡単に渡しては。

 今は必要なくても、あとあと必要になるかもしれません。

 それに、セツナ様ならそれくらいのお金直ぐに稼いで見せますとも!ね、セツナ様?」

 

 リリムが真面目過ぎて、逆に私の邪魔をしている。

 ほんと何言ってんのコイツ。

 目の前に現れた女神を追い返す様な事を。せっかく向こうがその気なんだからお言葉に甘えちゃえばいいじゃない。

 それに、糞真面目な正論かまされちゃったら、私もお願いしたくてもしにくいじゃないの。

 頭に大丈夫か?

 

 リリムに対する評価が、私の中で大きく変動を繰り返す。

 しかし、実際には借りると言う手もあるが、返す手段を考えると結局はクエストの受注が頭をよぎる。

 

「そ、そうですか?」

 

 マリーヌも困惑気味だが、この状況からお金をもぎ取るのは人として駄目になってしまう気がして踏み出せない。

 

「あぁーーもう!

 クエスト受ければいいんでしょ!!

 さっさとギルドへ行くわよ!」

 

 こうなったらヤケ糞だ。

 何が何でも高難易度のクエストをクリアして、大金を稼いでやる!!

 どうせなら、薬を買った後にも贅沢できるほど稼いでやるわ。

 見てなさいよ!!

 

 

  

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ギルド・アクアパール支店の中で、私たちは依頼書に焼き尽くす様な視線を送っていた。

 

「ん〜、300万を超える依頼って、思ったより少ないわね。」


 目標額に届く依頼書は全部で5枚、それも全部1000万クラスの報奨金が掛けられている。

 推奨レベル75以上、必要人数10名以上。

 こんなんじゃ望みは無いわね。

 レベルの上限開放をする為に、レベルの上限開放をした実力が必要だなんて、世の中も頭がおかしいわ。

 私たちの力だけで稼げる仕事が無いものかしら。

 

「リリム、そっちは安い依頼書しかないでしょ?こっちに来て一緒に策を考えてよ。」

  

 リリムは先程から、壁に貼られた大量の依頼書を一つ一つ眺めている。

 今私の持っている依頼書を見るなり、コレは私たちでは手に負えませんね、と他の依頼書を探し始めたのだ。

 

「ちょっと待ってください。すぐに行きますので。」

 

 まぁいっか。別に悪さをするわけでもないのだし。マリーヌと相談しておこう。

 

「マリーヌ、私たちでも倒せそうな魔物はいないかしら?」

 

「ん〜、なかなか難しいですね。

 他に数名パーティを募ればなんとかなるかもしれませんが。

 正直難しと思います。募れば募った分、報酬を分散しないといけませんし。」

 

 人を集めるなら、報酬も山分け。集めれば人数に反比例して取り分は少なくなってしまう。そうすると、元も子もないわね。

 やっぱり、小さい依頼でコツコツ稼ぐしかないかな。

 もしくは、強い人材をテイムするか。

 

「あった!」

 

 壁伝いに部屋の端まで進んでいたリリムが声を上げた。

 壁から依頼書を引き剥がし、手に持って此方へやってくる。何かいい依頼でも見つけたんだろうか?

 

「何かいい依頼があったの?」

 

 私が声を掛けると、リリムがニッコリと微笑んで依頼書をテーブルに置いた。

 いつもの嫌らしそうなニヤニヤとは違って、清々しい笑顔だった。

 

「コレです!ギルドで勤めていた時に聞いたことがあったんで、探してたんですよ!」

 

 リリムが探し出した依頼を確認すると、大見出しは素材収集と書かれている。

 細かい文書をすっとばして、下に書かれている報奨金に目をやってみると、5万ルクと書かれていた。

 

「5万ルクって、少なすぎじゃない。

 こんなの60回分もやらなきゃいけないわよ?」

 

 頭がおかしかったのは治ったと思ったのに、そうでもなかったかしら?

 

「ちゃんと見てください。

 5万ルクの下に書いてある事を。」

 

 下?

 よく見ると、依頼書の下に※印を付けた文章が小さく書かれている。

 何々。生け捕りに成功した場合に限り、30万ルクを支払う。尚、数量制限は設けない。

 

 30万ルク!?生け捕りに成功って、もしかして。

 私はハッとなりリリムの顔を見た。

 リリムはそれに気づくと、コクリと頷く。


「はい、セツナ様のスキルなら、簡単に生け捕りに出来るはずです。

 その魔物とは・・・。」

 

 リリムは依頼書の一文を指差して続けた。


「一角獣!」

 

「えっ、ユニコーン!?」

 

 まさかの神獣!?そんなもん30万ルクとか安すぎでしょ!

 まず見つけられないわよ!

 

「いえ、ホーンホースです!」


 ホーンホース?

 ツノの生えた馬って・・・


「やっぱりユニコーンじゃん。」

 

「それは神獣です。私たちが捕まえるのは魔物のホーンホースです!!」

 

 なんすかそれ、どこがどう違うの!?

 ていうか、ネーミングセンスおかしいだろ!!

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