第34話 渾身のツッコミ

 私の拳はリリムと偽物の頬を勢いよく弾き飛ばした。渾身のツッコミだ。

 それぞれがその場へと倒れこみ、偽物はボンっと煙を上げて精霊の姿になった。

 

 私のテイムしたレレルと同様に、姿が戻ると同時に泣き叫んだ。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 リリムは倒れこみ、ピクリとも動かない。

 と、見せかけていつもの様に悦ぶんだろうが!

 インターバルが無ければ容赦なく粛正してやるものを・・・。

 ほんと、身の危険しか感じない光景だった。一体何がどうやったらあんな状態になるんだ?

 

「いだいよぉぉ!誰かぁ!

 たーすーけーてぇぇぇぇえええ!!!」

 

 精霊うるさっ!

 せっかくだしもう一匹捕まえちゃお。そして黙らそう。


 捕獲。

 

 しかし、私の伸ばした手からは何も飛び出していかなかった。

 あれ、おかしいな?

 なんで?

 

 さっきスキルレベルを上げたけど、何も飛び出していかないのはおかしい。

 不思議に思って一度ステータスを確認したら、捕獲成功数が9に増えている。

 もしかして、捕まえてる!?

 レベルを上げたときに半透明になっていったのは覚えているけど、完全に見えなくなったってこと?

 まあ物は試しだ。

 調教!

 

「がばばばびばばばびびびーーーーー。」

 

 精霊はそれはもう盛大に震えて倒れ込んだ。

『調教に成功しました。』

 

 おし、黙らそう。と思ったけど、どうやら既に黙っている様だ。

 気絶している。一体どれほどの衝撃が加わったのだろう?

 

 でも気絶するとか、ある意味実用的では無くなったわね。

 ちょっと考えものだ。

 

 

 しかし、レベルを上げたスキルの性能は少し確認できた。調教のスキルはまだまだ未知数だが、捕獲は目に見えて強力になっている。

 目には、見えないんだけどね・・・。

 

「リリムさん、大丈夫でしょうか?」

 

 マリーヌが後ろから言った事で、私もリリムに視線を移した。

 確かに、一向に起き上がってこない。

 

「リリム、そろそろ起きなさいよね!」

 

 ・・・・・・起きない。

 まさか、頭でも打った?

 私は少しだけ罪悪感に苛まれて、リリムの横へと移動してしゃがみこんだ。

 リリムは目を閉じて、顔を横にしてうつ伏せで倒れている。

 手を近づけてみたが息はしているし、死亡のテロップも浮かんでこない。

 

「リリム、おーい。」

 

 呼びかけてみるが反応がない。

 まさか本当に打ち所が悪かったんだろうか?

 私も流石に焦り始めた。

 ツッコミとは言えやり過ぎたか?でもブレーキの効かないリリムだって悪い。

 いや、今はそんな事考えてる場合じゃないな。

 リカバリーを掛けてみるか。


 リカバリー!

  

『リリム・パトリッジの体力が5%回復しました。これ以上は効果がありません。』

 

 レベルを上げたため、一度に回復する量が増えた。これなら、20回使えば全回復!

 まぁ回数が多いことに変わりはないけど、1%の時と比べると天地ほどの差よね。

 

 しかし、これ以上の効果が無いということは、おそらく大量は全回復しているはずだが、なぜ目を覚まさないんだ?

 ドッキリか!

 

「ん・・・ーーーーーー。」


 すると、リリムが意識を取り戻し始めた。

 やっぱりドッキリ?

 でもね、心配さすんじゃないわよ。

 ヒヤヒヤしたわ。私は、悪くないんだからね。

 

「セツナ・・・様?」

 

 うん、記憶喪失みたいな事にはなっていない様だ。

 よかった。

 

「あんたね、私の偽物に惑わされてんじゃないわよ?

 なんでいつもいらん事をするかなぁ?」

 

 まともになる事は不可能なのか?

 

「申し訳ございません。

 私も、どうかしておりました。お手を煩わせてしまった事、お詫び申し上げます。ま」

 

 リリムは気持ち悪いほど丁寧な口調で、深々と頭を下げた。

 

「え、分かればいのよ、分かれば。

 もう変なことしないでよね。命令してない時の魔法は禁止よ?忘れないでね。」

 

 私がリリムの反応に調子を狂わせて、ついでと思って投げやりに言うと、リリムはもう一度頭を下げた。

 

「承知いたしました。以後、セツナ様の命令に背く様な事は致しません。」

 

 なになに!?

 リリム、マジで頭の打ち所が悪かったんじゃない!?

 完全に喋り方と喋る内容が別次元なんですけど!

 

 なんで!?

 いや、まともになったのならそれでいいけど。なんか違和感しかないわ。

 

 私はリリムにレベルの上がり具合を確認させて、攻撃と補助魔法の習得を促した。

 リリムの大好きな性魔導師の魔法は覚えるなと念を押したが、あっさりと了承して事なきを得た。

 リリムはレベル50で上限に達していた。

 マリーヌはこれにも驚いていた。

 

 二匹目を倒したところで、普通は35まで上がるかどうか微妙なところだと言う。

 私の職業が関係しているのではないかと思考に明け暮れていたが、結局分からず仕舞いだった。

 

 

 ちなみに、この状態で経験値を得ていれば、上限解放を行った際に蓄えた経験値の分だけレベルが上がるそうだ。

 リリムもやはり上限解放の事は知っており、解放条件についても二人から確認できた。

 

 解放するためにはギルドで薬を購入して、それを飲むだけで良いそうだ。

 

「それなら簡単ね、さっさと買いに行きましょう!」

 

 しかし、リリムがそれを制止する。


「いえ、その薬は物凄く高価ですので、おそらく現状では購入出来ないかと思われます。

 まずは、薬を購入するための資金を集める必要があるのではないでしょうか?」

 

 真面目な口調で進言された。

 ほんと、これはこれで調子が狂う。

 次期に慣れるだろうか?

 

「いくらくらいするの?」

「150万です。」

  

 150万!?

 そんな大金、しかもリリムと二人分で300万!?

 どうやって稼げばいいのよぉ!!?

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