第32話 痛いよォォォォォ

 濃霧の中をリリムと二人進んでいる。

 ゆっくりと足下を確かめながら、手探りで歩く。

 しかし、恐怖からか緊張からか、リリムがやけに大人しい。

 黙って私の後を付いてきている。

 

「セツナ様、何処まで進むんです?」

 

 さっきまで静かに歩いていたリリムが急に口を開いた。

 何処まで進むかと聞かれたって、私にも分からない。

 無駄な問答をする事もないので、とりあえず無視して進む。

 

「セツナ様ってば!」

 

 珍しく、リリムが腹を立て始めた。

 大抵の場合は、私の無視など御構い無しに喋り続けるか、無視される事に理解出来ない快感を覚えたりするのだが?

 普通の反応が何処か違和感を感じさせる。

 さっきから、一向に何も見えてこない。

 ぐるぐると同じところを歩いているかのような不思議な感覚だ。

 

「無視しないでくださいよぉ。」

 

「あのね、いい加減黙らないと、粛正するわよ?」

 

 言ったところで、連続で使用しても効果がなかったことを思い出す。

 

「それだけはやめてくださいよ!」


 ん?さっき効かないと豪語していたくせに、反応が違う。

 あ、何かわかったかも。

 此処を出るためには、敵を見つけてぶん殴る。ただそれだけ。

 間違ってたら申し訳ないけど、ちょっと失礼いたしまして。

 

「リリム、ちょっとちょっと。」

 

 リリムを近くへ手招きする。

 リリムが近寄ってきたのを確認し、私は拳を握りしめた。

 

「どうしたんですぶぁ・・・・・。」

 

 ドスっと鈍い音を立てて、拳をリリムの左頬にねじ込んだ。

 リリムはそのまま右側へと倒れこむ。

 

 同時に、ボンっと煙を上げて、リリムだった物が消え去った。

 そうして、そこに小さな羽の生えた人間が現れた。

 

「いだーい!!痛い痛い痛い痛いいたぁぁぁい!!!」

 

 現れたそれは頬をさすりながら大声で泣き叫び始めた。

 やっぱり偽物か。

 腐れ縁とはいえ、幼馴染の目を騙せると思わないでよね。

 そもそも、リリムがこの状態で何もしないわけがない。

 

 これが精霊かな?マリーヌは妖精自身に戦う力は無いとか言ってたな。

 それで、殴れば終わりって言ってたのか。

 途中経過はどうあれ、実力で倒したのだからもしかしてテイム出来たりするのかな?

 

 捕獲。

 

 とりあえず、痛がって泣き叫んでいる精霊を捕獲する。

 どうやら痛みで捕獲された事にも気づいていないらしい。

 

 調教!

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 精霊は更に大きな声で叫び、身体を震わせた。

 

『調教に成功しました。』

 

 出来ちゃったわ。

 さて、此処から出してもらいましょうか。

 どうせコイツが事の原因だろうし。

 

「あんた、さっさと此処から出しなさい!」

 

「わかったよぉ〜、痛いいぃぃぃい・・・」

 

 精霊は泣きっぱなしだが、だんだんと霧が晴れていき、その内また光に包まれた。

 光が消えると、元の花畑だった場所に戻っていた。

 

「お姉様!早かったですね!」

 

 飛んでいたマリーヌが、空から降りてきた。

 

「ええ、ついでに精霊もテイムできちゃった。」

 

「精霊を!?」

 

 マリーヌはそれを聞いて驚きの声を上げた。

 人間ですらテイムできるんだし、そこまで驚く事でも無いだろうに。

 かく言う貴方もテイムされてるんだから。

 

「もしかして、ダメだった?」

 

「ダメって事は無いですけど、そんな事は聞いたことなかったもので。

 そもそも魔物では無いですし。」

 

 人間も魔物では無いですよ?

 テイムされてる自覚って、無いんだろうか?

 まあ、従順で有能な人材だからどちらでも良いんだけど。

  

 リリムは、まだ帰ってきてないみたいね。

 あっちはどうなっているんだろうか?

 それから、精霊との攻防はこれで終了?

 

「戦いって、これで終わりなの?」

 

「そうですね、とりあえず今日はもう精霊も出てこないでしょう。

 最初のグレイトロードが一番の難所ですから。

 あれはLV70以上はありますから、普通の冒険者とかだと、まず精霊にたどり着けないです。」

 

 そんなに強かったのね、マリーヌが強すぎて、全くそんな感じには見えなかった。

 あれだけの数を倒したのなら、経験値もすごいんじゃない!?

 それに、精霊も倒してテイムまで成功した。

 これにリリムの分を足したらどうなるんだろう?

 とりあえず、楽しみは最後にとっておこう。

 リリムが帰ってきてからのお楽しみ。

 

 それより、リリムは帰ってくるわよね?

 まさか負けたりとか・・・。

 まぁ、まだ死亡のテロップも浮かび上がってこない。

 もう暫く待ってみるとしよう。

 

「痛いよォォォォォ!!」

 

 精霊は未だに頬をさすって泣いている。

 本当に打たれ弱いわね。

 テイムしたは良いけど、どうやって使おうかな。

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