第31話 調子狂うわぁ

 出たわね、これがマリーヌから聞いてた魔物。

 精霊の使い魔、グレイトロード。

 それは家の二階をのぞき込めるほどの巨体に、細長いヤギのような顔つきをしており、二本の湾曲した角が生えている。

 

 背中からは蝙蝠の様な羽が生えており、二足歩行で立っているが、その下半身は狼の様に毛深く鋭い爪を持っている。

 

 よく見ると、この一体だけではない様だった。

 私たちを取り囲む様に周囲をぐるりと8体のグレイトロードが出現している。

 

 地獄に一番近いとはよく言ったものだ。

 その単体から発するエネルギーは、戦闘がど素人の私ですら畏怖するほどだった。

 リリムは私たちの下まで駆けてきて、涙くんで状況を把握しようとしている。

 

「さあ、今日からここでレベル上げよ。

 リリム!泣き事は無し!!

 全力で生きなさい。

 マリーヌ、あなたが頼りよ!!」

 

「任せてくださいお姉さま!」

 

「ピクニックじゃなかったんですかぁあ!!?」

 

 意気込むマリーヌと裏腹に、リリムは渋々身構える。

 私とリリムは特に装備を整えていないので、やる事は生き延びるだけだ。

 

 パーティを組んで魔物を倒せば仲間にも経験値が入る。

 なので、ひたすら強い魔物をマリーヌに倒して貰って経験値を稼ぐのだ。

 

 これで、ある程度までレベルを上げられる筈だ。

 

「それじゃあ、行きますよ!

 地獄の業火をご覧に入れます!インフェルノ!!」

 

 突然空が薄暗くなり、現れたグレイトロードを包み込む巨大な黒い炎が辺りを埋め尽くした。

 花畑は一瞬にして焼け野原と化し、轟々と音を立てて炎は燃え上がる。

 

 やがて黒い炎が消える頃には、そこには消し炭となった地面とグレイトロードだけが残り、それらはチリとなって風に飛ばされた。

 

「凄い!さすが大魔導師ね!!

 あの数の敵を一瞬なんて!」

 

 私は驚き賞賛の声を上げたが、すぐに口を紡ぐ事になった。

 花畑からは次々にグレイトロードが現れ始める、その数は先ほどの比では無かった。


「お姉様、地獄の始まりはここからですよ!」

 

 マリーヌが声を上げると、再度現れたグレイトロード達が一斉に攻撃を開始した。

 口を大きく開き、炎の魔力の塊を飛ばしてくる。

 

「飛びますよ!フラップ!」

 

 マリーヌの魔法で空へと舞い上がり、炎弾を回避できた。

 私とリリムだけなら既に消し炭になっていただろう。

 任せるとは言ったけど、やっぱり魔王を倒したパーティは違うわね。

  

「炎で倒されたからって、対抗して炎の人形とは考えが浅はかですね!

 スターダスト!

 さあ、これで本体を炙り出します!」

 

 空に巨大な岩石が幾重にも出現し、地上目掛けて降り注ぐ。

 それらは隙間なく眼科の花々を押し潰し、地上との衝突に爆散した。

 

 残ったのは、ボコボコに変形した地形だった。

 そこにいた全ての生物は押し潰され、爆風と共に消え去っていた。

 こんなのどんな奴が相手でも絶対死んでるでしょ。

 

 敵じゃなくてよかったぁ・・・。

 マリーヌの理不尽な強さを目の当たりにし、その戦力の大きさに身震いする。

 

 地上からは土煙が上がり、その中に光の粒が舞い始めた。

 

「出たわね。」

 

 あれがマリーヌの待っていた物?

 グレイトロードを倒しきったあとに出現するものを倒せば、更に膨大な経験値を獲得できると言っていた。

 しかし、それを倒すには力は必要ないらしい。それに、一人で倒す必要があるんだとか。

 光の粒は一点に集まって大きく輝き始めた。

 マリーヌは私やリリムなら問題なく倒せる筈だと言っていたが、一体何が待っていると言うのだ?


「それじゃあお姉様、リリムさん、敵を見つけて顔面をぶん殴ってやってください。

 それができれば、完全勝利です!

 いってらっしゃい!!」

 

「ち、ちょっと!?」

 

 マリーヌの掛け声と共に、私とリリムは浮かび上がった光の中へと放り込まれた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 



 気がつくと、私は先程までとは違う場所に立っていた。

 そこは深い霧が立ち込めており、直ぐそこの視界でさえ遮られている。

 

「何処よここは!?」

 

 声を出しては見たものの、誰かに届く宛てもない。

 様子から察するに、全く別の場所にやってきた様だ。

 

「セツナ様!?」

 

 何処からかリリムの声が聞こえてきた。

 マリーヌは一人で戦うと言っていたが、同じ所にやって来たみたいだ。

 運が良かった。

 

 一緒にいる相手がリリムなのが逆に不安だが、今はそんな贅沢を言っている場合ではない。

 一人でない事に少し安堵した。

 

「リリム、ここよ!」

  

 声の聞こえた方に向かって叫ぶと、霧の中から人影が浮かんできた。

 目の前まで近づいて、それがようやくリリムと視認できる。

 視界は良くなる気配がない。

 

「ここは何処なんですか!?」

 

 リリムが泣きそうな顔で迫ってくる。

 ちょっと、鬱陶しいんですけど。

 

「私もわからないわよ、マリーヌが言うにはとりあえず敵を見つけてぶん殴ればいいらしいわ。」

 

 簡潔にそれを伝える。

 さっきここへ送られる前にマリーヌも言っていたし、リリムも察してくれるだろう。

 

「殴る、ですか。

 こんな濃霧の中で敵が見つかりますかね!?」

 

 それはごもっとも。

 これだけ霧が濃いと5mも離れれば全く見えなくなる。

 何かの魔法だろうか?

 だが、それがわかった所で私たちに成す術はない。

 

 地道に探していくしかないのだ。

 

「弱音を吐いてても仕方ないわ、とにかく足元に気をつけながら進んでみましょう。」

 

「はい。」

 

 私たちは当ても無く、ゆっくりその場から行動を開始した。

 それにしても、リリムがやけに大人しいわね。こんな場所で二人きりなんて、てっきりまた調子に乗ってくると思ったのに。

 いや、別にきて欲しいわけじゃないわよ?

 ただ、なんか調子狂うわぁ。

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