第29話 キタコレ!

 寝る前に、習得できるスキルがないか確認しておこうかな。

 JPも4だけど残ってるし。

 

 スキル一覧を確認すると、習得条件を満たしたスキルがあった。


 調教成功数字5を突破と書かれている。

 そう言えば、この街に来て2人テイムしたんだった。

 そう言うのも条件であるのね。

 

 必要JPは4か、なんかピッタリすぎるわね。

 でも、他に覚えたリカバリーとか意思伝達よりコストが高いってことは、その分使えるスキルってことかな?

 

 せっかくだし、他に習得できるものもないから覚えちゃおうかな。

  

 私は躊躇うことなくスキルの習得を決めた。

『このスキルを習得しますか?YES/NO』

 

 YES

 

『粛清LV1を獲得しました。』

 

 粛清って、どんな!?

 とりあえず詳細を見てみよう。

 

『主の威厳で従者に粛清を与える。』

 

 キタコレェェェェエエエエ!!!

 マジっすか、リリム対策ってやつですか!?

 罰ってどんな罰かは気になるけど、これは何とも望んで止まなかったスキルだ。

 

 神は私を見放してはいなかった。

 これでリリムの暴走を抑えられるかもしれない。

 

 明かりの無くなった部屋で、私は一人喜んだ。

 目を開くと、暗闇に目が少し慣れた所為か先ほどより部屋の中がよく見える。

 

 ラックはリビングの隅で丸くなっている。

 と、月明かりに影の揺らめきが映り込んだ。

 何だったんだ?

 

 ソファーから起き上がり窓を見るが、特に何も無い。

 ただ外の景色が見えるだけだ。

 

 気のせいかな?

 

 そう思って再び寝転ぶと、今度は窓の方からドンと言う音が聴こえた。

 私は身体をビクつかせ、月明かりの指す床に人影を見た。

 

「ひっ!!?」

 

 思わず小さな声を上げて、身を縮めた。

 

 何!泥棒!?

 どうしよう、ほんと怖いんですけど!!?

 

「グルゥゥゥゥゥゥゥ。」

 

 ラックが気づいて窓へと駆けて行った。

 そうだ、ラックがいたんだった。

 すっごい心強い!

 

「(ラック!気をつけて!!

 それから、マリーヌ!泥棒よ!!

 起きてぇ!!)」

  

 私は咄嗟に意思伝達で二人に叫んだ。

 

「(今行きますお姉様!)」

「(セツナ様!逃げてください!!)」

 

 二人も同時に意思を飛ばしてくる。

 私は意思伝達で話しが出来る事に少し安堵し、落ち着きを取り戻した。

 

 ソファーの背もたれから顔を覗かせると、人の顔が窓に張り付いている。

 

「きゃあ!!」

 

 あまりのホラーな光景に後ろに仰け反っり、そのままドスンと床に尻餅をついた。


「いたた・・・。」

 

 でも、今の変な顔、なんか見覚えが・・・。

 バタバタと足音を立ててマリーヌが階段を降りてきた。

 マリーヌは直ぐにランプの明かりを持って私に駆け寄ってくれた。

 

「お姉様、大丈夫ですか!?」

「ええ、それより、そこの窓に・・・。」

 

 私が指を差すと、マリーヌはそちらを向いて首を横にした。

 

「えっと・・・リリム、さん?」

 

「え?」

 

 その名を言われて、私の頭にもハテナが浮かんだ。

 リリム?

 

 明かりを頼りに窓を見ると、涙で顔が崩れたリリムが窓に張り付いているではないか。

 何でリリムが・・・。

 

 女将さんはどうしたの!?

 私は怒りと疑問を持って意思を飛ばした。


「(あんた、こんな所で何してんのよ!

 泥棒かと思ったじゃない!!

 それに、女将さんはどうしたのよ!?)」

 

 窓は開けてやらない。

 

「(女将さんには許しを貰いました。

 お願いですから開けてくださいぃ〜。)」

 

 はぁ、この子の執念深さは凄いわね。

 

「マリーヌ、仕方ないから玄関開けたげてよ。」

  

「わ、わかりまさした。」

 

 マリーヌは足早に玄関を開けて、リリムを中に招き入れた。

 

「で、どうしたのよ。」

 

 涙を拭かせて事情を確認する。

 

「あの後、女将さんに魔法を強要されまして、せっかくだからとことん弄ってやったんです。

 そしたらもう出るわ出るわで」

「あぁ、その下はいらないわ。

 とりあえず、宿の件はどうなったの?」

 

 ちょっと想像しそうになっちゃったじゃない。

 何度も言うが、そんな趣味ないから。


「えっと、最終的には私の有り金を全部渡して何とかなりました。

 だから、私はもう一文無しです。

 セツナ様、養ってください!!」

 

 お前なぁ、せっかくだからそのまま捕まってれば良かったのに。

 そしたらマリーヌとラックだけで気楽に旅ができたのよ?

 

 私のリリムを背負う運命は変わらないのね・・・。

 

「養うほどお金なんて持ってないわよ。

 何とかして稼ぎなさい。」

 

 本当に世話の焼ける・・・。

 

「でも、まだ身体は売りたくないです!」

「他の稼ぎ方考えろよぉ!!」

  

 ほら、ラックなんて既に呆れておやすみモードで丸くなってるわよ?

 マリーヌもあくびが止まらないみたい。

 

「とりあえず寝かせてよ。」

 

 私も寝るわよ。

 一人加わるだけでどうしてこうも煩くなるのかしら?


「今夜は寝かせねぇよ?」

「誰だよ!?」

 

 近くに手頃な道具がなかったので、とりあえず頭を叩く。

 

「あん❤︎」

「悦んぶな!!」

 

 あぁ、どうしてこうも言う事を聞かないんだ。

 

 まてよ?さっきのスキル、試してみようか。


「リリム、あんまり聞き分けがないと私も怒るわよ?」

「そんな貴方も見ていたい!」

 

 

「粛清。」

 

 

「あ・・・、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 スキルを唱えると、リリムがお腹を抑えて走り回り始めた。

 部屋のドアというドアを開いて周り、その内の一つに駆け込んで行った。

 

 あれ?

 てっきり頭が割れるほど痛くなる的な奴を想像してたんだけど。

 違った?

 

「ねぇマリーヌ、あそこって?」

 

 リリムの入っていったドアを指差して聞いてみる。

 

「トイレ、ですね。」

 

 そっちかぁ。

 それは計算外。

 でもそれはそれで有りなのか?

 

「それじゃあ、私は寝ますね。

 お姉様、おやすみなさい。」

 

「おやすみ。私も寝るわ。」

 

 マリーヌは明かりを持って部屋へと帰っていった。

 私も改めてソファーに横になる。

 粛清、使えそうね。

 

 リリムが近くにいないって、なかなか快適だわ。

  

 

 それから30分くらい経った頃、リリムはトイレから帰ってきた。

 私も結局眠るに眠れなくて、リリムにさっさと寝るよう伝えてようやく眠りにつくことができたが、リリムは何処かげっそりとした顔をしていた。

 

 ようやく、私にリリムの手綱を握る手段が出来た。

 明日からは、今までより上手にやって行けそうな気がする。

 

 明日からはレベル上げをする予定だ。

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