第28話 盛大な勘違い

 ぎゃあぎゃあと叫びながら宿の女将さんに連れていかれたリリムを見送って、残った私達は別の宿を探し始めた。

 

「何処かに良い宿ないかしらね?」

 

 一泊分の宿代を支払ってしまったが、流石にラブホで女と二人夜を明かしたくはなかった。

 諦めて一晩だけと言う気持ちは微塵もおきなかったので仕方ない。

 

「あ、マリーヌの家って泊まれないの?」

 

 ここの領主なんだし、家くらいあるだろう。

 そうすればわざわざ宿を取らなくても一晩寝られる。

 布団なんてなくてもこの際文句は言わない。

  

「と、泊まれますけど。

 寝具は一人分しかありませんよ?」

 

 あ、やっぱり?

 でも全然オッケー!


「そなの全然問題ないわ。

 私は気にしないわよ!」

 

「じ、じゃあ家へご招待します。」

 

 マリーヌは少し頬を赤らめて目を逸らした。

 家に連れてくのが恥ずかしいのかな?

 まぁボッチの少女宅に友達が行くことなんてないだろうし、緊張もするのかな?

 まぁ、友達って言うのも既に怪しいけど、そんな事はわざわざ言わない。

  

 ちゃんと言う事を聞いてくれるように行動しないと。

 スキルに奢りすぎたら後が怖いかもしれないし。

 

 民家から少し離れたところまで来ると、一件の家が見えた。

 二階建てではあるが、そんなに大きな家ではない。

 

「もしかして、これがマリーヌの家?」

 

「はい、最初は大きな家をいただく予定だったんですけど、一人じゃ使い切らないのでこっちにして貰ったんです。」

 

 謙虚な子ね、私なら断然大きな家を選んでるわ。

 使い道は無くてもそのうち使えるかもしれないし。

 ただ、掃除とかは面倒よね。

 その時は家政婦でもメイドでも雇うと思うけど。

 

「まぁ一人暮らしなら十分すぎるサイズではあるわね。」

 

「(俺も入っていいのか?)」

 

 ラックが心配そうに意思を伝えてきた。

 犬だもんね、入れない家だってある。

 それが考えられるなんて、ラックはやっぱりまともだわ。


「大丈夫、ちゃんと入れるわよ。

 でも、寝室は別ね。」

 

 マリーヌの承諾もあり、私たちは家に入った。

 中は綺麗に片付けられていて、と言うより殆ど物が置いてない。

 魔王を倒した後凱旋してたわけだし、家を貰ってから家具などを集める時間の余裕なんてなかったか。

 

「まだ住み始めたばっかりだから何もないですけど。」


 

 この時、マリーヌの内心は大変なことになっていた。

 

 ★★★

 

 

 初めて出来た友達が、セツナお姉様が私の家にぃ!!!

 どうしよう、持て成す物なんて何もないわよ!?

 それにセツナお姉様の従者のこのラックって魔物も、なんてお利口さんなの!?

 気遣いができるワンちゃんなんて最高じゃない!

 

 あぁ、私。お姉様のお友達として、そして従者として。

 夜のお勤めを頑張らなくてはならないのかしら!?

 私、色々と初めてなんだけど、リリムさんの様にお姉様を満足させることが出来るんでしょうか?

 

 縛り上げられて目隠しまでされるなんて、想像しただけで恥ずかしいですけど、お友達のお姉様の為ならなんだってして差し上げます!

 

 落ち着け私。

 

 まさか私の家に押し込まれるとは思っても見なかったけど、宿と違って他人がいないから遠慮はいらないってお姉様の考えだわ。

 

 私は今日、女になるのね!!

 

 

 ★★★

 

 

 盛大な勘違いから、セツナの夜はスタートする。

 

 

「マリーヌ、そう言えばご飯どうしよっか?

 バタバタしてたら忘れちゃってたわ。」

 

 私は荷物をリビングの端に置くと、マリーヌの方を向く。

 ラックは足元で舌を出しながら尻尾を振って、構って欲しいとアピールしている。

 

 が、そんな事など気にしない。

 だってお腹が空いたから。

 自分が一番、我田引水な性格は理解しているけど、そんなのどうしようもないじゃない。

 

「そ、そうでしたね。

 それに、私温泉も行きたかったです。

 夕食の材料もあまりないので、外食と約束していたお風呂へ行きましょう!」

「いいわね。

 荷物も置いたし、せっかくだから食べに行きましょう!

 ちゃんと温泉の約束も忘れてないわよ。」

 

 あぁ、元々自分で温泉に誘っといてなんだけど、1日に3回も入るのは流石に身体がふやけそう。

 

 元はと言えばリリムが全部悪いのよ。

 あの子がラックに余計なことをしなければゆっくり温泉にも浸かれたし、宿絡みのイザコザも起きなかったのに。

 

 そのリリムも若女将に捕まっちゃったから、これ以上文句も言えないんだけどね。

 

 とりあえず、ご飯食べに行きましょうか!

 よく考えたら最近野宿だったし、久しぶりのお店での夕食が楽しみだわ。

 

「マリーヌのオススメのご飯屋さんてある?」

 

 温泉の事はよく知ってたから、そういうところも知ってるでしょ。

 

「いくつか知ってますよ。

 前に勇者と旅した時にある程度のお店は網羅してます。

 居心地が良かったんで大分長居したんですよね。この街。」

 

 勇者か、そのうち叩き潰してやるつもりだけどね。

 その為の準備もしっかりしていかないといけない。

 

「じゃあ、お任せしようかな。」


 私はマリーヌにお店を任せて食事へ向かったが、その間勇者を屈服させるための計画を考えていた。

 

 最終的には勇者をテイムして、民衆の眼前で告白させて盛大にフってやるつもりだ。

 その為には勇者を振るのに値する理由を作る。

 

 私が一度振られたから振り返すのでは民衆の目線からすると少し弱い気がする。

 出来れば勇者を不幸のどん底に叩き落とすくらいのネタが欲しい。

 

 あれだけ女を誑かしていたのだ、そんなネタはゴロゴロと転がっているに違いない。

 その為にはまず女どもを味方につける必要がある。

 勇者が逃げも隠れも出来ないように、足場を無くしていかなければ。

 

 それを考えると、魔王討伐のメインメンバーであるマリーヌをこの時点でテイムできた事はとても大きかった。

 残るメインメンバーもテイムして、戦闘的な能力を削る。

 マリーヌの様に簡単には行かないかも知れないけど、そこは職業レベルを上げる事でカバーしていくしかない。

 

 なので、これからするのはレベル上げだ。

 まずマリーヌに引っ張ってもらってレベルを上げられるだけ上げる。

 スキルや魔法を使う事でレベルが上がるけど、やはり強い魔物を倒して経験値を得る方が間違いなく有効的だ。

 

 よし、プランは固まった。


 1.レベルを上げる(メンドくさいけど)

 2.メインメンバー及び取り巻きの女どもをテイム。

 3.勇者を陥れるネタを確保。

 4.勇者をテイム。

 5.盛大に振る。

 

 なかなかに時間がかかりそうだけど、目的の為には時に遠回りが必要だと私は知っている。

 

 勇者を振った後の事なんて考えてないけど、これが今の私の原動力。

 まだ20歳だし、終わった後でも何かをする時間くらい十分にあるわ。

 

 

 そんな事を考えながら、再び秘湯【翡翠】へ赴いて温泉に浸かった。

 今度は行きも帰りもマリーヌのテレポートで移動したので楽ちんだった。

 

 ラックは温泉に入れないので家に置いてきたけど、文句も言わずにしっかり留守を任されてくれた。

 

 ちなみに、夜の翡翠はとても綺麗だった。

 光を溜め込む光石がクリスタルをライトアップし、幻想的な風景を作り出していた。

 それに、月明かりに照らされたお湯も綺麗な翠色に輝いてまるで宝石の様だった。

 

 マリーヌは楽しそうに食事を摂ったり、温泉に浸かりながら話をしていた。

 リリムと違って変な事はしてこないので、私も安心して一緒に楽しむことができた。

 

「お姉様と一緒に外食や温泉。とっても楽しかったです。」

 

 マリーヌは家のリビングに唯一置かれていた大きなソファーに横になっている。

 壁際にL字型に置かれたソファーは、大人二人が寝転べるほどの大きさだった。

 

 私も三度目の温泉で少し疲れたので、一緒に横になっている。

 

「そうね、でも今日も色々あったから疲れたわ。

 私このまま寝れそうよ。」

 

 最近は地面でばかり寝ていたので、柔らかいソファーの上はとても心地良かった。

 

「じ、じゃあ明かりを消しますね。」

 

 もう少し話をしたかったのか、マリーヌは少し躊躇して部屋の明かりを落とした。

 まぁ明日もあるし、今日はもう寝たい。

 

 と、マリーヌが寝室に向かわず此方へ歩いてくる。

 

「ここで寝るの?」

 

 薄っすらとした月明かりが窓から溢れる。

 明かりを落とした部屋は、目が慣れていない為ほとんど何も見えない。

 そのシルエットだけがかろうじて見える程度だ。

 

「あ、いえ。

 私も、明るいままだと流石に恥ずかしいので・・・。」

「何が?」

 

 マリーヌのシルエットから、ハラリと衣服が滑り落ち床へと舞った。

 マリーヌはそのまま此方へ近づいてくる。

 

「ち、ちょっと。

 何!?」

 

 混乱する私をよそに、マリーヌはソファーへ腰を下ろした。

 パフンとソファーが凹む。

 

「リリムさんみたいに上手では無いと思います。

 私も、そ、その・・・初めてなので。

 お姉様、痛く縛ったりは、しないでくださいね。」

 

 何言っとんじゃコイツ?

 あれか?

 昼間の話をここまで引っ張ってきたのか?

 

「だから、私はそんな事をしないっての!」

 

「えっ!?でも、リリムさんが・・・。

 夜はお姉様にその身を捧げなさいって・・・。」

 

 あんの野郎ぉぉぉおおおお!!!!

 

「それ、嘘ですから。」

 

「そうなんですか!?

 わ、私の頑張りは!?」

 

 暗くてよく見えないが、マリーヌは完全に服を脱ぎ捨てているようだ。

 それに、おそらくとんでも無く恥ずかしそうにしているのだけは伝わってくる。

 

「リリムが悪いって事で気にしないでおいてあげるから、服着てさっさと寝なさい。」

 

「は、はい!!」

 

 マリーヌは服を手探りで拾って、そそくさと寝室へ向かっていった。


 また頭のおかしい奴が一人増えたかと思った。

 リリムがいつ帰ってくる知らないど、帰ってきたら容赦なく叱ってやろう。

 とにかく、今日は安心してゆっくり寝れそうだ。


 そんな時、部屋を照らしていた月明かりに、誰かの影が映り込んだ。

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