第27話 こいつも変態か!?

 着替えて温泉を出た私たちはマリーヌのテレポートで宿へと向かった。

 陽も傾き始めて夜が近づいている。

 

 翡翠の湯も人が集まりだしていた。

 あの温泉の夜の景色も見てみたいが、そうも言ってはいられない。

 

 私は宿の近くまで来ると、意思伝達にてラックへ呼びかけてみた。

 あまり離れた距離から試したことは無いので通じるか不安ではあるのだけど。

 

「(ラック、聞こえる?)」

 

「(セツナ様!今どこに!?)」

  

 よかった通じた。

 

「(もうすぐ宿に帰るわよ、あなた無事なの?)

 

「(はい、恥ずかしながらリリム先輩にやられてしまい、つい先ほどまで気を失っておりましたが今は大丈夫です。)」

 

 ふぅ、よかった。

 大事な乗り物が使えなくなったら大変だもの。

 あ、でも大きな移動はマリーヌがいるから別にもう心配しなくていいのか?

 

 もしかして、ラックがいる意味ないんじゃない?

 戦闘要員としていてくれると助かる程度?

  

 まずい、ラックのポジションが消えかかっている。

 私の唯一の魔物・・・。

 何か存在価値を見つけてあげないと。

 

「(まぁいいや、とりあえず今からリリムがあんたを迎えに行くから、大人しく一緒に出て来なさい。)」

 

「(せ、先輩が来るんですか!?

 わ、わかりました。攻撃しないて頂けると助かります。)」

 

 どんだけリリムが怖かったのよ。

 仲間同士なんだから仲良くしてほしいわね。

 

「(だそうよリリム。ラックを虐めないでね。)」

 

「(かしこまり!)」

 

 私はマリーヌと少し離れた所で待つ事にして、リリムは一人宿へと向かっていった。


「そういえばさ、マリーヌは宿の部屋の中までテレポートでは行けないの?」

 

「一度行ったことがないとテレポートは出来ないです。

 座標を捕捉できませんので。」

 

 そっか、そこまで万能な魔法ではないのね。

 私からすればそれですら羨ましいけど。

 

 使える魔法はリカバリーだけだし。

 回復量1%よ?

 雀の涙にも程があるわ。





〓〓〓〓〓



 

 それから待つ事20分、ようやくリリムとラックが出てきた。

 なんでそんなに時間がかかるのよ。

 

 荷物持って出てくるだけじゃない。

 

 って、めっちゃ走ってるわね。

 なんか追いかけられてない?

 

「(セツナ様!!逃げてください!!!)」

 

 は?

 

「(どういうことよ?)」

 

 いきなり逃げろって言われても。

 何のことだか意味がわからん。

 

「(ラックが気絶する前に暴れまわったみたいで、部屋がめちゃくちゃになってました!!

 若女将に追いかけられてます!!)」

 

 ラック!全然大丈夫じゃないじゃない。

 リリムが言う通り、確かに二人の後ろから若女将が浴衣姿で追いかけてきている。

 でも、逃げたところで指名手配されたら溜まったもんじゃない、勇者を追い詰めていく予定が私が追い詰められてしまう。

 

 どうしたもんか。

 

 あ、女将さんもテイムしちゃえ。

 私は犯罪者扱いされるのなんて御免だし、仲間に引き入れてしまえば同罪も同然。

 私がラックとリリムがしでかした罪まで被る必要はない。

 

 命令を聞かなくても最悪二人を人質に私は旅を続けよう。

 

 よし、そうしよう。

 

「(リリム、その女将さんになら魔法を最大出力で撃ってもいいわ!)」

 

 まずは禁止していた魔法を対象限定で使用許可を出す。

 これでリリムも女将さんには魔法を使える。

 

「(私自身にも使う許可をォォォォォ!!!)」

「(それは却下。)」


 そんな足手まとい斬って捨てるわよ?

 

「(んも〜、女将さんにばっかり羨ましいですが、逃げる為です。

 仕方ないから敏感肌ぁぁあ!!)」

 

 リリムは女将さんへと振り返ると、魔法を最大出力で使用した。

 さて、私もあそこまで向かいますか。

 

「何?何何何!!?

 あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ"あ"あ"あ"!!!??」

 

 女将さんは奇声を上げながらその場にへたり込んだ。

 

 やっぱその魔法怖いわぁ〜。

 使わせる私も私だけど。

 

 捕獲。

 

 私の手から赤透明な薄い鉄の板の様なな物が飛んでいき、女将さんにへと巻きついた。

 

 そう言えばスキルレベルを上げたんだった。

 見た感じ紙より丈夫そうだ。

 捕獲の強度が上がってる気がする。

 それに若干長さが伸びたかな?


 調教

 

「んあぁぁ〜〜ーーーーーーーー!!」

 

 女将さんにと言えまだ若い女性が道端で声にならない絶叫をしている。

 

 日も暮れ始めたことと、ホテル街を疾走してすこし外れた場所であったので幸い人気は少ない。

 

 とはいえ、何か卑猥だ。

 早くレベルを上げてリリムに頼らなくてもテイムできるようにしたいわね。

 なんか癪だし。

 

『調教に成功しました。』


 よし、成功だ。


「リリム、魔法を解除して。」

 

 女将さんにこれ以上の醜態を晒させる前に魔法を解く。

 女将さんは不思議そうに自分の身体をさすっている。

 

「女将さん、宿のことごめんね。

 今回だけ許して?」

 

 都合が良いかもしれないけど、私関係ないし。

 やったのはリリムとラックだもん。

 

「あ、あなた様は?」

 

 女将さんは私を見つめるが、名前はわからないようだった。

 そう言えば名前なんて教えてなかったわね、テイムしたからって名前が分かるわけじゃないのか。

 

「私はセツナ。」

「セツナ様・・・。

 はっ!そうだ部屋!!

 部屋を直してください!

 畳と壁がボロボロになっているんです!」

 

 あら、やっぱ駄目?

 

「直すお金がないのよ。どうにか見逃してもらえないかな?」

 

「そんな、セツナ様のお願いでも流石にそれは無理ですよ・・・。

 あれを直すにもかなりお金がかかりますし、お支払いできる何かがありませんでしょうか?」

 

 ふむ、仕方ないが向こうの想いが私のレベルの範疇を超えているようだ。

 やむ終えまい。


「原因のリリムとラックを働かせるから、無給でこき使ってやって頂戴。

 私は一切関わってないから。

 二人の2ヶ月分くらいの給料でなんとかならないかしら?」

 

 マリーヌがいればこれからは何とかなりそうだし。

 二人にはこの際人柱になってもらおう。

 

「そんな、あんまりですセツナ様!

 セツナ様が私を縛り付けたのが原因じゃないですか!?」

 

「縛り付けた!?」

 

 

 リリムの言葉にマリーヌが反応し、少し頬を赤くした。

 

「マリーヌは絶対違う想像してるから。」


「仲がいいのは宜しいですが、部屋を荒らされるのは勘弁頂きたかったです。」

「女将さんまで!?違うって、ご想像にお任せできないわよ!!

 私はリリムが後を追ってこないように部屋の柱に縛り付けてただけよ!!」

 

 盛大な勘違いをされたもんだ。

 私にそんな趣味はない!

 

「目隠しと猿轡までされました・・・。」

 

 不要に胸を手で隠して顔を下に向けるリリム。


「変な言い方すんな!

 猿轡じゃなくて叫ばないように布を噛ませただけでしょうが!!!」

 

「「うわぁ〜」」

 

 だから違うって、そんな目で私を見るな!

  

「でも、さっきのは良かったわよ。」

 

 女将さんは頬を赤らめながらポツリと呟いた。

 さっきっていつよ!?

 こいつも変態か!?

 

「それやったのリリムですから!!」

 

「そうなんですか、じゃあ修理代がわりに今晩お借りしていきますね。」

 

 女将さんはリリムの手を取って歩き出そうとする。


「そんな!?セツナ様!

 離れたくないです!!!」

「自分のしたことなんだから、とりあえずひと晩その人に付き合いなさい。

 もしかしたら明日には解放してくれるかもよ?

 いい?これは命令です。

 もし背いたら二度と一緒に旅をしないわよ。」

 

 二人を差し出したはずが、リリムだけ連れていかれてしまった。

 ちょっと得した?

 

 まぁ、女将さんに許してもらう為だ。

 私に敵意はないようだから、思う存分リリムを使ってください。

 

 おかげで今夜はゆっくり出来そうです。

 

 なんか修理代の事は有耶無耶になっちゃったけど。

 まぁいっか。

 

 とりあえず今晩はゆっくりしよ〜。

 

「マリーヌ、ラック、別の宿へ行きましょう。」

「お姉様、私、まだ心の準備が・・・。」

 

 

 ・・・・・・・・・。

 

 

「何もしないわよ!!!」

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