第26話 泣きたい

「なかなか起きないわねぇ。」

 

 リリムと2人でマリーヌが目覚めるのを待っていた。

 とりあえず何の面白みもなくテイムに成功してしまったので、ゆったり温泉に浸かっていたのだけどなかなか起きない。

 

「そんなに凄いんですかね?レベルMAX。」

 

 リリムは他人事の様に首をかしげるけど、アンタの魔法なんだから私が知るわけないでしょ。

 だからといって私にはかけて欲しくない。

 

「わ、私もいいですかね?」

  

 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべてリリムが私の方を見る。

 

「やめて、無駄な時間を食うことになるから。」

「セツナ様のいけずぅ〜。」

 

 少し職業レベルが上がってきたからか、本人が本気で拒まない限り言う事を聞いてくれるようになった。

 まぁリリムの場合はその時々で違うから確証はないんだけど。

 

 ちなみにマリーヌのテイムに成功したお陰で私の職業レベルが2も上がった。

 JPも合計10獲得したので捕獲のスキルレベルを上げておいた。

 残りJPは4だ。

 これは持ち越すことにする。

 

 従者一覧からマリーヌのステータスを確認してみたけど、流石魔王討伐メンバーと言った強さを持っていた。

 職業は大魔導師、レベルは91もり普通に戦ったら間違いなく瞬殺されるであろうことは明白だった。

 

 よくテイムに成功したなと自分でも不思議だ。

 しかし、これで一つの核心を得た。

 

 勇者への復讐は叶う・・・。

 

 あんな男どうでもいいと思うかもしれないが、私をコケにした罪を償わせなければ腹の虫が収まらない。

 

「セツナ様、ちょっと私見てきますね。」

 

 リリムが不意に温泉から出てマリーヌの元へ向かう。

 あの子もあの子なりに心配しているんだろうか?

 でもリリムに限ってそんなことはないような気がする。

 どうせ起きたら起きたでラックの時のように先輩だ後輩だと喚き立てるつもりだろう。

 

 ラック?そう言えばラックは!?

 

「マリーヌが出てきたせいですっかり忘れてた。」

 

 かなりの時間が経ってしまった。

 もう夕方が近い。

 

 大丈夫かしら・・・。

 

 私もそろそろ温泉を上がろうと脱衣所へ向かった。

 思い出したら心配になってきた。

 さっさとマリーヌを起こしてラックの確認に行かないと。

 

 脱衣所へ入ると、リリムがタオル姿でマリーヌの肩を叩いている。

 此方は私の思い過ごしだったか。

 流石のリリムもマリーヌの心配をしていたようだ。

 

「あ、セツナ様もこられたんですね。

 大発見ですよ!意識がないとレベル1程度の敏感肌でも効果があるみたいで、マリーヌちゃんがまた気絶しちゃいました!!」


「お前はなんばしよっとかぁぁぁぉぁあああ!!!!!!」

 

 まぢでこいつ馬鹿じゃないの!?

 また気絶したって事は一回起きたって事でしょ?

 無駄な時間とらすなよ!!

 

「その魔法は私の指示以外では使用禁止ね。」

「えぇ!そんな!!?

 酷いですセツナ様!!」


 リリムが驚きの声を上げるが、驚くのはこっちの方だ。

 何故そうやって面倒を増やして行くのか理解できない。

 

「んん・・・。」

 

 マリーヌが小さく動いた。

 あれ?気絶したばっかりなのにもう眼を覚ますの?

 

「レベルが最大になったので、魔法の強弱も解除も出来るようになりました。

 なのでもう解除してますから、直ぐに起きますよ。

 だから、そんな酷い事を言わないでください!!」

「それでも使用禁止ね。」

 

 ホント恐ろしい魔法だわ。


 そんな事より早く起こしてラックの所へ帰らないと!

 

「マリーヌ、起きてマリーヌ?」


 肩を持って揺さぶる。

 ・・・・・・・・・・・・。


「おーい、起きろー。」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「友達やめちゃうわよ?」

 

「っは!?」

  

 ボソッと耳元で囁くと、眼を見開いてマリーヌが起き上がった。

 かけていたタオルがハラリと落ちて、上半身が露わになる。

 

 ちっちゃ!

 余裕で勝ったな。

 

「ここは!?

 ・・・・・・!!

 セツナお姉様!!」


 混乱した顔で辺りを見渡してから此方を向く。

 お姉様か、それも悪くないわね。

 リリムと違って役立つ事を期待してるわ!

  

「大丈夫?頭とか打ってない?」

「はい、どこも痛くはありませんが・・・。」

 

 マリーヌは自分の身に起きた事をよく理解していない様だ。

 だが、テイムは成功している。

 やはり都合のいい様に私への感情が書き換えられているのだろうか?

 

「ちなみに、タオルずれてるわよ?」

 

 さりげなく教えておく。

 

「きゃ!」

 

 ゴソゴソとタオルで体を隠すマリーヌを見て思う。

 リリムと違って初々しい。

 

「悪いけど、貴方が気を失っている間に温泉入っちゃった。

 急用を思い出したから一旦宿に帰るわよ。」

「えっ!?私まだ浸かってないですよ!」


 ラックの事も心配だし、マリーヌには悪いと思うけど私は帰りたい。

 別にまた後で来ればいいのだ。

 

「後でまた来るから、一回宿に帰らせて。

 それに、貴方の魔法があればあんな道歩かなくてもテレポートで移動できるのよね?

 直ぐにこれるじゃない。」

 

 そう、ラックの確認に行かなければと思っていた時に思い出したが、マリーヌはテレポートが出来ると言っていた。

 こんな場所さえ歩いて来る必要は無かったのだ。

 

「わ、わかりました。

 でも、絶対後で入りにきますよ!

 友達ですもんね、約束ですよ。セツナお姉様。」

 

「そうね。約束しましょう。」

 

 知ってるかしら、友達って普通様とか付けないわよ?

 それに敬語も使わないわ。

 マリーヌの中で私がどう言ったポジションに存在するのか分からないが、とりあえず今はどうでもいいや。

 

「じゃあ、悪いけど着替えてテレポートで私たちの宿まで送ってくれる?」

「わかりました。で、どこの宿です?」

 

 あ、そう言えばリリムに宿を探させたからちゃんと名前を覚えてないや。

 安いしペットオッケーだったから特に聞きせず入ったんだった。

 

「なんて名前だったっけ?」

 

 宿を選んだリリムに聞く。

 

「ラブパラダイスです。」


 何てネーミングセンスの宿を探し出してくれてるんだ!?

 聞くだけで引く名前よ?

 

「だってさ。」

 

「えっ!?」

 

 マリーヌは眼を見開いて私とリリムを交互に見る。

 たしかに変な名前だが、そんな驚く様な場所か?

 中は案外普通だったわよ?

 

「なんか曰く付きの宿なの?」

 

「だ、だってそこ・・・。

 ラブホテルですよ?」

 

 マリーヌの言った言葉を瞬時に理解できず、リリムの方を向いた。

 ・・・・・・・・・・・・。

 

「せめて普通の宿を探しなさいよぉおおおお!!!」

  

 あ〜、これだめだ。

 あの女将さんも絶対勘違いしてる。

 案内してくれる時の微笑ましい表情も営業スマイルじゃなくて、暖かく見守ってくれていただけに違いない。

 

 こいつは何ていらん事をしてくれたんだ。

 堂々と宿から2人で出入りしていた事を思い出すとだんだん恥ずかしくなってきた。

 宿に戻りたくない!!!

 

 料金は前払いで払ってあるが荷物は中に置きっぱなしだ。

 戻りたくないけど一度は戻らないと・・・・・・・・・。

 

「リリム、街に戻ったら私の荷物とラックを連れてきて。」

 

 私はもうあの宿には行きたくない。

 

「ええ!一緒に行きましょうよぉ〜。

 だって今更じゃないですか!」

 

 やだ。

 これ以上私に屈辱を味合わせないでくれ。

 泣きたい。

 

 だって、これでも女の子だもん・・・。

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