第23話 実力差
リリムに魔法の使用を命令したが、なかなか使おうとしない。
「(どうしたのよ!さっさと使いなさい!)」
「(無理ですよぉ、もし私がやったってバレたら攻撃されて痛い目にあうじゃないですか。)」
珍しくリリムが人に対して怖気付いている。
やっぱ子供とは言え強いのよねぇ。
そりゃあ魔王を倒したパーティだし、一般人が戦っちゃダメなやつよね。
「(それに、そんな快感をあんなガキに味合わせたくないです!)」
「ってそっちかよ!!!」
「なっ、なによ急に!?」
ついつい大声で突っ込んでしまったので、マリーヌも驚いてビクッと肩を吊り上げた。
いらんツッコミをさすな!
「え、あぁ。いや・・・。
急に貴方みたいな大物の話し相手って言われて、びっくりしただけ。」
「(そんな事どうでもいいから、さっさと魔法を使いなさい!命令よ!!)」
私は下手くそに誤魔化しつつリリムに命令する。
レベルは上がってきたけど、おそらくまだ普通の人間を自由に命令する事は出来ない。
魔物と違って自己意識の強い人間はなかなか言う通りに動いてくれないのだ。
リリムに教えてもらってステータス画面から職業の詳細を確認出来たので、ある程度自分の力について把握できていた。
まず、基本的に人間をテイムできるのは職業レベル5〜のようで、リリムにスキルが効いたのは単なる偶然。
おそらく私に対して異常な好意を持っていた事が原因だと思う。
職業レベルに対応してしまえば、あとは相手との実力差が成功のカギを握る。
力で圧倒して負けを認めさせるか、精神的に負けを認めさせるかで、これは魔物のテイム条件と同じだ。
力で圧倒するなんて事は、駆け出しの新人である私たちではほとんどの場合条件を満たす事が難しい。
しかし、精神的にならいくらか希望が残っている。
その点で、リリムの魔法【敏感肌】との相性は抜群にいいのだ。
欲望の塊であるリリムの使い方は、まぁ見ていて気持ちが悪い。
しかし、相手を服従させる為に手段を選ばなければ有用である事この上ない。
それに、私に対して行為を求めてるリリムを見ていると避ける気にしかならないが、勇者のパーティが泣いて頼みを請う姿を想像するとニヤニヤが止まらない。
ダメ元でやってみるだけの価値が私にはある。
ダメならダメで白を切り通すし、成功してしまえばこっちのもの。
テイムが解ける事はないし、命令を聞かなくとも私に対して敵対する事はない。
「(やらないと、もう背中を流させないどころか、温泉にも入らないわよ!)」
「(それはもっと嫌ですよ!!
じゃあ、もうどうなってもしりませんからね?
えい!敏感肌×2!!)」
これからは、お風呂ネタである程度言う事を聞かせられそうね。
さて、大魔導師様はどうなったかなぁ。
私はマリーヌの様子を伺いつつ、逃げられないように話を持ち出す。
「お話し相手、喜んで引き受けさせて頂きます。
私も貴方みたいな有名人に声をかけられて幸せですね。
立ち話もなんなんで、お茶しながら話しませんか?」
私は穏やかな口調でニコニコと笑みを浮かべて提案した。
自分で笑顔を作っておいてなんだが、最高の表情をしていると思う。
心の中ではニヤニヤが止まらないでいた。
「え、あぁ。ありがとう。
そうね、それじゃぁあそこの茶屋へ行きましょう。
デザートも美味しいわよ。」
マリーヌはそう言って茶屋へ歩き始める。
あれ?もしかして効いてない?
でも、魔法に気付いてもないわね。
「(セツナ様、効いてませんよ!?)」
リリムが慌てたように意思を飛ばしてくる。
ちっ、やっぱり実力差がありすぎるのか。
魔力防御が高すぎる?
「(まさか効かないなんてね・・・。
まぁ仕方ないか。)」
「(魔法のレベルも上げてませんからねぇ。レベルを上げればもしかしたら通用するかもしれませんけど。
でも、気付かれなくてよかったですよ。)」
リリムは肩を落としてトボトボと歩きながら、それでも魔法に気づかれなかった事に安堵していた。
「(そういえばJPをストックしてたわね。
いい機会だし、魔法のレベル上げなさい。
敏感肌のレベルに振れるだけ降っちゃって!)」
「(いいんですか!?)」
リリムはパッと顔を上げて嬉しそうな顔をする。
癪な部分は残るが、実際この魔導師に何も出来ないのは腹立たしい。
できる事はやっておきたい。
「(セツナ様!なんと3も上げられましたよ!
最初は必要JPが3でしたが、次の2回が6だったので残っていた15ポイントを丁度使い切りました!)」
「(よし、じゃあ魔法のレベルは4ね。それなら案外いけるかも?)」
さて、もう一度試してもらおうか。
そう思った時、リリムが私の裾を引っ張った。
「(セツナ様、あの帽子とマントが怪しいです。
賢者になったからかわかりませんが、あの二つから強い魔力を感じます。
もしかしたら魔法防御力を高める装備かもしれません。)」
なるほどね、装備か。
あんまり考えてなかったけど、攻撃するには確かに邪魔ね。
装備自体が魔法への耐性なんかも持っているのかもしれない。
出来れば全て装備を外させられればいいのだが、そこはここ温泉街という地の利をうまく利用できればなんとかなるかもしれない。
成功確率を上げるために何とか温泉まで連れ込めないだろうか。
それと、現状で魔法が効くかも試しておきたい。
「(魔法はまだ打てる?)」
「(この魔法コスパがいいので、まだまだ大丈夫です。)」
となると、やっぱり一回試してほしいわね。
「(じゃあ、バレてないみたいだしもう一回使ってみて。)」
「(やってみます。)」
リリムは改めて魔法を使ったが、これといって変化は見られなかった。
やはりこのままでは難しいようだ。
と、そうこうしているうちに茶屋についてしまった。
「さ、ここよ!
早く入りましょ!」
マリーヌはやけにウキウキだな。
そんなに見ず知らずの観光客とお茶するのが楽しみか?
もしかしてぼっち?
マリーヌは茶屋の戸を開けて私の手を引いて中へ入ろうとした。
「あっ!?」
突然手を離すマリーヌ。
「どうしたんです?」
自分の手と私を交互に見て驚いた様な顔をしている。
もしかして?
「大丈夫?」
マリーヌを気遣う様に肩にそっと手を当てる。
「ひゃ・・・!!」
おやおや?
ちょっと魔法の効果出てきてんじゃない?
私は心の奥底に沸き立つニヤニヤを押し殺し、頭の中で今後のプランを組み立て始めた。
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