第24話 悪い顔になってますよ

 マリーヌにかかった魔法の効果はまだまだ弱い様だった。

 肩に触れた後、手を握って店へと入ったが、おかしな反応は見られなかった。

 

「すみませ〜ん、注文お願いします。」

 

 マリーヌにいい印象を与える様に立ち回る。

 

「マリーヌさんは何にするですか?」

 

「私はチョコバナナクレープとアイスティーにしようかな。」

「私もアイスティー飲みます!それと、クレープじゃなくて、普通のチョコバナナにします。セツナ様!」

 

 お前のは聞いてない、自分で頼め。

 

「セツナ様って、あんたどっかの貴族かなんかなの?」

 

 マリーヌはリリムの発言に首を傾げた。

 そりゃ様付けで呼んでたらそうなるわよね。

 最近呼ばれ慣れててすっかり忘れてたわ。

 

「(私も注意するの忘れてたけど、リリムも気をつけてよね。」

「(すみません。ついモッコリ。)」

「(うっかりだよ!)」

 

 危ない危ない。つい声を出してツッコミを入れるところだった。

 こいつちょいちょい仕込んでくるなぁ。

  

「セツナ様は別の領地からお忍びでこの街にいらっしゃいました。

 この事はご内密にお願いいたします。

 私はお仕えしているメイドの様なものです。」

 

 リリムが小声でマリーヌに囁きかける。

 内容としては間違っていない。

 質問に対して全く答えになっていないが、さも貴族ですよと言ったニュアンスで見事な切り返しだ。

 

「え、そうだったの?・・・・・・。」

 

 マリーヌは何やら考え始めた様に下を向く。

 

「お待たせしました。ご注文をお伺いします。」

 

 丁度その時ウェイトレスが注文を取りにやってきた。


「チョコバナナクレープ2つと、チョコバナナ1つ、それとアイスティー3つ。」

 

 私は特に食べたい物もなかったので、マリーヌと同じものを注文した。

 ウェイトレスは注文を復唱して調理場へと帰っていった。

 

「貴方も、私と一緒な物?」

 

 マリーヌは考え込んでいた様な顔をやめて私の方を向いた。


「えぇ、私も同じものが食べたかったの。

 気が合うわね。」

 

 優しく笑いかけてマリーヌの好感度アップを図る。

 まずはある程度好感度を上げなくては、私にはこれからマリーヌを温泉に連れ込みその装備を剥がすと言う使命があるのだ。

 

「そ、そうね。

 ・・・・・・。」

 

 マリーヌは口数少なく下を向いた。


 ん?ちょっと押しすぎたかな。

 もう少し控えめに行った方がいいタイプか?

 

「あ、あのさ・・・・・・。」

 

 マリーヌは何やらもごもごと喋り出した。

 

 急に声ちっちゃいわよ。

 聞こえないんですけど!

 

「ん?」

 

 そんな気持ちは押し殺し、作った笑顔は崩さない。

 

「あのさ、友達に・・・なってくれないかな?」


 きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 マリーヌは恥ずかしそうに顔を落としながら、上目遣いで此方を見上げる。

 少女とはいえ整った顔をしている彼女にこんな事をされたら、男なんてイチコロだろうと思う。

 しかし、残念ながら私は男ではないし、ロリコンでも女好きでもない。

 

 私の野望はそんな事では揺らがないわよ?

 ふ、ちょろいわね大魔導師。

 

 しかし、こうもあっさり行くとは逆に拍子抜けだ。

 まぁ結果良ければなんとやら。

 

「よろこんで!」

 

 私は心から最高の笑顔でマリーヌを受け入れた。

 これが勇者への復讐の第一歩。

 後はうまくテイムするだけだ。

 

「(セツナ様、めちゃくちゃ悪い顔になってますよ・・・。)」

 

 おっと、危ない危ない。

 しかし、気付かれてないからオッケーオッケー。

 

「(リリム、もう一度魔法をかけて頂戴。

 さっき少し効いてたわよ。

 時間を開けて徐々に魔法を浸透させるのよ!)」

「(セツナ様、相当黒いです。

 私にもおんなじご褒美を!命令をして下さい!!)」

 

 リリムはものすごい勢い顏で私を見ている。

 それをご褒美と思ってる時点で、あんたには命令しないわよ。

 

「あ、ありがとう。だったら、さん付けなしで、その・・・マリーヌって呼んで?」

 

 少しの間黙っていたマリーヌがポツリと呟いた。


「わかったわ。マリーヌ。

 改めて、私はセツナ、こっちはリリムよ。

 勿論、呼び捨てでお願いね。」

 

 マリーヌは照れた様に頷いて、これまでのの成り立ちを話し始めた。

 

「私、孤児だったの。

 ある日行く宛のなかった私を勇者ハイゼルに救われてね、色々あって仲間になったのよ。

 魔王を倒した後、ハイゼルに言われたわ。

 ありがとう、君はもらった領地でゆっくりと休むといいって。

 私の事を気遣ってくれたんだと思う。

 でも街に来たら来たでなかなか友達もできなくて寂しくてさ。

 セツナとリリムに会えて、友達ができて本当に嬉しいわ。」

 

「そっか。私もマリーヌに会えて良かったわ。」

 

 そっかそっか。

 それでいきなりいきなり話しかけて来たのね。

 でもね、その話には二つの間違いがあるわよ?

 

 まず、勇者は貴方を気遣ったわけじゃないと思う。

 だってあいつ相当数の女をはべらせてたわよ?

 多分、貴方捨てられてるわよ?


 それと、私は友達であってそうではなくなる予定だ。

 絶対にテイムするって決めてるもん。

 友達関係というより主従関係になる未来が貴方を待っています!

 テイムした後リリムみたいにならなければ、友達として私の役に立ってね!

 

「お待たせしました。

 チョコバナナとチョコバナナクレープ2つ、アイスティー3つです。」

 

 なんともタイミングよく運ばれてくるお店だろうか。

 ウェイトレスはテーブルに品物を並べていく。

 

 それでは、私の計画の第一歩と、

「新しい友達に、乾杯!」

  

 お酒じゃないけどね。

 雰囲気は大事よ?

 私は一口アイスティーを飲んで、マリーヌに握手を求めて手を差し出した。

 

 マリーヌもそれに気づいて手を差し出す。

 私はマリーヌの手をガシッと掴む。

 

「ひゃん!!?」

「よろしく。」

 

 マリーヌは肩を吊り上げてビクついたが、私は素知らぬ顔で固い握手を交わす。

 リリムの魔法も好調の様だ。

 友好関係も上々だし、うまく行きすぎて怖いくらいね。

 

 この流れに乗って一気に攻めるわ!

 

「マリーヌも大変だったのね〜。

 魔王を倒しちゃって、これからどうするつもりなの?」

「えっ?あぁ、まだピンとこないのよね。

 ついこの間まで冒険の日々だったし、正直言って領地の運営なんてやる気が起きないし。

 何がしたいかもよくわからないわ。」

 

 マリーヌは喋りながらも、少しずつ体をモジモジと動かし始めた。

 これは行けるわね。

 

「そっか。

 ・・・・・・。

 そうだ、ねぇ。これ食べ終わったら一緒に温泉へ行かない?

 マリーヌのオススメがあったら紹介して欲しいな!」


 もうここまで来たら行けるとこまで突き進むのみ。

 目的に向けて遠回りなんて私にはできない。

 断わられたらそれはそれ、別の方法を考えるだけだ。

 

「それはいいけど、貴方達さっき朧へ行ってきたんじゃないの?」

「私温泉大好きなのよ。温泉のはしごとか最高じゃない?」

 

 勿論行くわよね?

 友達の誘いだもん、ぼっちの貴方には断れないはず!

 

「わかった。じゃ、最高の温泉を紹介するわ!」

 

 無邪気な笑顔を見せる少女は、魔王を倒した一人だとは全く思わせない雰囲気を醸し出していた。

 リリムはと言うと、一人黙々とチョコバナナにかぶりついている。


「(嫌らしい食べ方すんな!)」

「(甘いんですから、チョコをしゃぶったってバチはあたりませんよ!)」


 なんだかんだで私は達はそのまま茶屋でおしゃべりをして、マリーヌの案内で温泉へと向かった。

 

 目的への第一歩、最初のバトルフィールドは温泉。

 しかし、これは戦いとは言えない一方的な嫌がらせになるはずだ。

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