第17話 山荒し

「(セツナ様、どうかなさいましたか?)」

「あ、ごめん。

 ラックがまともそうで驚いただけ。

 ちなみにあんたはいつも一人、一匹なわけ?」


「(はい。我々マウントウルフは生まれて直ぐに母の元から旅立ちますが、基本的に群れる事はありません。)」


 あ、普通に喋っちゃったけどちゃんと伝わってるのね。

 これなら会話も楽チンだわ。

 

 それに、伝えようと思った事以外は何だかんだ伝わらない雰囲気だし、一々スキルの解除をしなくて済みそう。

 

「魔物界も結構過酷なのね、人間じゃあ考えられないわ。」

 

「セツナ様、マウントウルフと話をしているんですか?」

 

 隣で座って燻煙を嗅いでいたリリムが不思議そうにこちらを覗いている。

 あんたはそのまま犬みたいに匂いを嗅いでおけば良かったのに。

 

「そうよ、この子はラックて言うの。」

「セツナ様だけずるいです!私も会話したいです!」

 

 そっか、リリムにはラックの意思が伝わってないのか。

 そう言えばリリムとの意思伝達は解いてたわね。

 

 三人で意思伝達すれば伝わるのかしら?

 今しがた不快に思って解いたばかりなのに、また繋げるの?

 

 でもそうよね、コミュニケーションも大事よね・・・。

 

 仕方ない・・・・・・。

 しゃあなしやで?

 

【意思伝達】

 

「はい、これで喋れる?」

 

 リリムはニコニコしながらマウントウルフの方に近づいていく。

 よっぽど嬉しいのだろうか?

 わたしも魔物と話が出来て内心はすごく高揚しているし、未知の体験と言うのはワクワクするわよね。

 

「おい犬っころ、よくも私たちを追い回してくれたわね。

 セツナ様の前であんな醜態晒させやがって、私の魔法を打ち込んだろか!?」

 

 リリムはラックの耳を引っ張って怒声を上げた。

 

 おぉー!見事に私の勘違い!!

 こいつすげぇ肝っ玉してんなぁ!!

 

 てか何その変わり身。

 

「(す、すまなかったリリムよ。

 しかし俺も魔物、人を襲う事は仕方ないと思って許してくれ!?)」

 

 何とも友好的な対応だこと。

 耳を掴まれても怒ることもせず、きちんと謝っている。

 めっちゃいいやつじゃん。

 

「リリムぅ?

 せ・ん・ぱ・い。でしょ!!」

「(リ、リリム先輩・・・。)」

 

 すっげぇ威圧的!?

 何この差!!

 

「よろしい。

 私の方がセツナ様の従者として先輩なんだから、当たり前よね?」

 

 一体何様よ、と言うかそれでいいのか?

 そんな張り合うこと?

 

「(はい。

 それにしても、その鶏肉は何とも美味しそうですね、セツナ様。

 私も後で肖りたいものです。)」

 

「ん、いいわよ。ただし、私たちの貴重な食料だから食べ過ぎはダメよ。

 あんた図体でかいから大食漢ぽいし、足りない分は自分で採って来なさいよ。」

「そうよ、くれぐれもセツナ様にご迷惑をお掛けしないようにね!」

 

 お前が言うか?

 お前の存在自体すでにご迷惑を被っているんだが。

 まぁ全く頼りにならないかと言われるとそうでもないので何とも言わんが・・・。

 

 これでリリムがまともだったらどれだけ素晴らしかったか。

 少なくともラックがまともそうで安心した。

 

「そういえば、テイムした魔物って印みたいなものを付けなくちゃいけないのよね?」


 ふと思い出したのでリリムに確認してみる。

 確かそんな決まりがあったような?

 街中を歩いたりするときも、テイムした魔物だと分からないと攻撃されるかもしれないしね。

 

「その通りです。

 実際付ける印は決まっていません。

 首輪でも衣服でも何でも大丈夫です。

 人為的な物を身につけさせておけば問題ありませんよ。」

 

 それって危なくない?

 決められた物じゃないと、魔物が勝手にそういう物を身に付けてたら分からないじゃない。

 でもまぁ、わざわざ購入しなくていいな楽でいいか。

 

「そっか、なら確か私のベルトがあったはずだから。

 首輪代わりに付けときましょうか。

 ラックの首無駄に太いし、ベルトくらいで丁度いいでしょ。」

 

  私がそう言うと、頭に思念が届いた。

 

「(セツナ様から、プレゼントという事ですね!)」

 

 ラックが舌を出して『はっ、はっ、はっ』と尻尾を振っている。

 

 犬だな。

 

 まぁ、プレゼントと言えばそうなるのか?

 

「そうなるのかな?」

 

 私の言葉に尻尾をさらに振り始めるラック。

 うん、やっぱり犬。

 でもこれはこれで可愛いわね。

 リリムには絶対に出せないペットの様な可愛さがある。

 

 ん?

 なんか視線を感じる・・・。

 

 見るとリリムが恨めしい目つきで目を見開いて此方を凝視している。

 

「(犬ばっかりずるい!

 犬ばっかりずるい!!

 私のは?私のは?私のは!?)」

 

 わざわざ意思伝達で伝えてこないで欲しい。

 意思の強さに比例するのか、頭にガンガンと響き渡る。

 

「うっさいリリム!

 あんたに首輪なんか付けなくてもいいでしょうが!!」

「付けてくださいよぉ!!!」

 

 いや、絶対に嫌。

 変な誤解しかされないじゃない。

 

 そんなリリムを無視して、私はラックに首輪をつけた。

 なかなか似合っている。

 

「いいじゃない!」

「(ありがとうございます!)」

 

 さて、そんな事をしている間に燻製も出来上がった。

 2人と1匹で味見をしたけど、最高でした!

 

 私たちは再び出発の準備をして、ラックに跨った。

 

「ラック、走れそう?」

「(はっ、速度は落ちるでしょうが問題ありません。

 リリム先輩・・・毛を引っ張らないでください・・・)」

 

 私の後ろに跨ったリリムを見ると、これでもかとラックの体毛を引っ張っている。

 

「やめぇ!」

「あぁん❤︎」

 

 むぅぅ、咄嗟にチョップをしたけど、悦んでやがる。

 そろそろ本気で対処法を考えなくては。

 

「じゃあラック、ヨロシク!」

「(かしこまりました!)」

 

 私の掛け声に合わせてラックが走り出した。

 私はラックの首輪を手綱がわりにもち、リリムは私にしがみつく。

 しがみつくと言っても、リュック越しなので変な事はしょうがない。

 

 完璧!

 ラックは山岳を疾走した。

 すぐに山を1つ越えて、最後の山をのぼり始める。

 

「凄いわね!早い早い!!」

 

 心躍らせながら流れていく景色を眺めた。

  

「(お褒めいただき感謝いたします!)」

 

「・・・ん。

 ・・・・・・ぁ❤︎」

 

 後ろから小さく呟く不吉な声が聞こえてきた。

 とりあえず聞かなかった事にしよう。

 

「(イイ!ロデオの様な突き上げが!!

 イイわよラック!最高よ!!❤︎)」

 

「ラック、ストップ。」

 

 ラックが止まり、私は無言でリュックを離してラックから降りた。

 

「やぁ、止まっちゃやぁよぉ!?」

 

 助走をつけて飛び上がる。

 

「(そ、それは!!)」

 

 ラックが此方をみて少し驚いた声を上げるが、私はそのまま両足をリリムに突き出した。

 

 ドロップキーーーーック!!!!

 

「あぁぁぁぁん❤︎」

 

 ラックの上から弾き落とされるリリム。

 私は華麗に着地する。

 

「お前ふざけんなよ!絶対いらん事したろ!!

 移動中に感じてんじゃねぇぞボケ!」

「セツナ様が目の前にいると思うと、敏感肌を使わずにはいられなくなりまして。

 あぁ、衣摺れぇぇぇ!!!」

 

 リリムは立ち上がろうとして崩れ去った。

 

「ラック、あいつ置いていこう。」

「(よ、よろしいのですか!?)」

 

 もうどうでもいいっしょ。

 煮るなり焼くなり好きにするといい。

 

 私の心を表す様に、ひゅーっと風が通り抜けた。

 と、突然風が強まっていく。


「(まずい、セツナ様!!

 物陰に隠れてください!

 山荒しです!!)」

 

 ラックが慌てように意思を伝えてきた。

 

「何?山荒し!?」

 

 山荒しって何さ!?

 

 ラックは崩れているリリムを咥えて走ってくる。

 私は慌てて落ちたリュックを背負い、ラックの後を追って近くにあった大木のウロに入り込んだ。

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